第36章 共闘と対立のはざまで二人は
やはり、無駄な会合だった。
マフィアが探偵社の提案を受け入れるわけないし。
ましてや共闘なんてあり得ない。
帰ろうとする首領の背中に、社長が呼びかけた。
「今夜、探偵社は呪いの異能者“Q”の奪還に動く」
「それが?」
足を止めた首領は、無感情な顔で振り返る。
「今夜だけは邪魔をするな。互いのために」
「何故?」
「それが、我々唯一の共通点だからだ――」
――この街を、愛している。
「街に生き、街を守る組織として、異国の異能者に街を焼かせるわけにはゆかぬ」
首領はそれに答えることはしなかった。
代わりに。
「組合は強い。探偵社には勝てません」
それだけを残した彼が、太宰さんとあたしたちの前で立ち止まった。
「ではまた、2人とも。そうそう、太宰君。マフィア幹部に戻る勧誘話は、まだ生きているからね」
その台詞に、太宰さんは「まさか」と笑う。
「そもそも、私をマフィアから追放したのはあなたの方でしょう」
え、どういうこと?
そう思ったのはあたしだけではなくて、首領も少し驚いたように首を傾げた。
「君は自らの意志で辞めたのではなかったかね?」
そうだ。
作之助を犠牲にして捨てた首領を見限ったのは、あたしたちの方だったはず。
けれど、太宰さんは微笑みを保ったまま、瞳を黒く濁らせた。
マフィアにいた頃と同じ、底の見えない濁った瞳。
「森さんは恐れたのでしょう? いつか私が首領の座を狙って、あなたの喉笛を掻き切るのではと。かつて、あなたが先代にしたように」
首領の表情は相変わらず読めない。
広津さんの眉が、微かに動いたような気がした。
どういうこと?
そんなことを言える雰囲気でもなくて。
太宰さんは、あの濁った瞳がウソのように、にっこりと笑う。
――鬼は他者の裡(うち)にも鬼を見る。
「私も、あなたと組むなど反対です」
* * *