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血染櫻【文豪ストレイドッグス】

第36章 共闘と対立のはざまで二人は


「……完全なる協調、だが――」

「それもあり得ない」

 太宰さんが首領の台詞を引き継いだ。

「その通り。マフィアはメンツと恩讐の組織。部下には探偵社に面目を潰された者も多いからねぇ」

 首領の言葉に、後ろに控える黒蜥蜴たちの表情が変わる。

「私の部下は何度も殺されかけているが?」

「だが、死んではいない。マフィアとして恥ずべき限りだ」

 人を殺すことを躊躇わないマフィアが、探偵社の人間を誰1人として殺せない。
 それは確かに、マフィアを名乗る人間として恥ずかしいものだ。

 難しいことは分からない。
 それでも、この会合が『決裂』へ進んでいることだけは分かった。

 社長は思案するように右手を顎に当てて頷きながら、左手で腰の刀に触れる。

「ならば――」

 それは自然な動きで、どこにも違和感はなかった。
 しかし、次の瞬間。

「今、ここで全ての過去を清算する」

 社長が放つ強烈な殺気に、あたしの背筋が粟立ち、無意識にナイフへ手を伸ばしていた。
 それを太宰さんがやんわりと止める。

 首領の後ろに控えた黒蜥蜴たちは、社長の殺気に一瞬だけ怯み、立花は二丁拳銃、銀は刃の細い刀を抜いて、社長に向かおうとした。
 けれど、社長は彼らの武器を、瞬く間に切り落とす。
 その動きは早すぎて、あたしの目でも追うことはできなくて。

 気がついたときには、片足で着地した社長は、背後に立つ首領の首筋に刃を立てていた。
 対する首領も、刃を立てる社長の首筋にメスを当てている。

「……刀は捨てたはずでは? 孤剣士『銀狼』――福沢殿」
「メスで人を殺す不敬は相変わらずだな。――森先生」

 その言葉は、この会合が初対面でなかったことを示している。
 社長は鋭い視線を、首領は楽しそうな視線を交差させた。

「相変わらずの幼女趣味か?」
「相変わらず、猫と喋っているので?」

 不意に、社長の姿が霞んで消える。
 周囲を探せば、全く違う場所に彼は立っていた。
 木陰には谷崎が姿を隠している。

「……立体映像の異能か」

 そう言う首領の表情は、実に残念そうだ。

「楽しい会議でした。続きはいずれ、戦場で」

 首領は社長に背を向ける。
 このまま帰るつもりのようだ。
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