第36章 共闘と対立のはざまで二人は
「そう言えば、昨日、社長と敦がえらく話し込んでいたが――その件か?」
「そうだ」
その言葉を発したのは、音も気配もなく入って来た社長だった。
いつから聞いていたのかは分からないけれど、いつもの厳かな雰囲気を纏う社長に、国木田はピシッと背筋を正しす。
さすがの太宰さんも、身体を起こした。
社長が登場したことで緊張した空気に、あたしは太宰さんの腕を抱きしめる。
「太宰、マフィアの首領(ボス)と密会の場を持つ件は進んだか?」
「手は打っていますが――」
太宰さんは、やる気なさそうに頭を掻いた。
「マフィアの首領は来ると思うか?」
「来るでしょう。社長を殺す絶好の好機ですから」
「太宰さん、そうかもしれないけど、そんな言い方……」
太宰さんのストレートな物言いに、社長は目を伏せて踵を返す。
「構成員同士で延々と血を流し合うよりはいい」
社長が事務所を出たことを確認した国木田が、まるで錆びついた人形のように、ギギ…と首を動かして太宰さんへ顔を向けた。
その顔は、酷く青ざめている。
「……おい、太宰。説明しろ。マフィアの首領と……密会だと?」
「そうだよ。敦君の着想から、えらく大事(おおごと)になったものだ。いくら組合が最大の脅威になったとはいえ……」
「待て待て待て!」
混乱しているのだろう。
太宰さんの言葉を遮り、国木田は「何が何やら……」と頭を抱えた。
青い顔はさらに蒼白になり、国木田はだらだらと汗を流す。
「第一、なぜお前が密会の手筈を整えている?」
「え、何でって……そんなの決まってるよ」
「元マフィアだから」
キュルンと効果音がつきそうなほど、にっこりと笑った太宰さんは、爆発的な可愛さだった。
分かりきったはずの答えに、国木田が固まる。
「今や、国木田君以外はみんな知っているよ?」
「え、国木田には太宰さんが伝えるって……まだ言ってなかったの?」
「うん」
悪びれもせず頷く太宰さん。
固まった国木田の身体は白くなる。
人間って、驚きが最高潮に達すると白くなるんだ。
覚えておこう。
国木田の名前を呼びつつ、太宰さんがその身体をつつくと、彼は派手な音を立てて倒れるのだった。
* * *