第36章 共闘と対立のはざまで二人は
「枯木(こぼく)のようにただ寝ていたい」
「枯木なら可燃ゴミの日か」
本気の目で太宰さんをゴミの日に捨てようと言う国木田に、あたしは頬を膨らませた。
「むぅ」
何かガツンとしてやりたい。
そこで閃いたあたしは、顔を覆って身体を震わせた。
「ひ、酷いよ、国木田……太宰さんをゴミの日に捨てるなんて……っ。太宰さんがいなくなったら、あたし……あたし……!」
秘技、嘘泣き!
太宰さんには絶対に通じないけれど、国木田には効果てき面だった。
「お、おい! 何も泣くことないだろ! 捨ててやりたいのは山々だが、本当に捨てるわけじゃ……」
本音がだだ漏れの国木田の胸に抱きつき、そこから目当ての物を掏(す)りとる。
パッと離れたあたしの手にあったのは、『理想』と書かれた、国木田愛用の手帳だ。
「貴様、騙したな!」
「騙される方が悪いんだよー!」
そう言って、あたしは近くにあったペンを手に取る。
そして、びっしりと書かれた人生計画の5年目のところへ書き込んだ。
「お、おい! やめろ!」
一仕事終えたあたしは、手帳を国木田へ投げ返した。
「ふぅ……」
やりきった達成感と満足感にひたると、その直後、背筋が凍るような視線を感じて振り返る。
「だ、太宰さん……?」
「私の見ている前で私以外の男に抱きつくなんて、やるではないか」
「い、いや……あれは、手帳を掏るために仕方なく……」
「今夜が楽しみだね」
「あ、あたしは楽しみじゃな……」
薄く微笑む太宰さんが怖くて、あたしは彼から視線を逸らした。
その先では、あたしが書いた一文に肩を震わせる国木田が。
「なんだ、これは……『27歳、薄毛に悩まされて病院を受診』? 馬鹿な。俺に限って、そんなことがあるわけ……」
そんな国木田を見た太宰さんは。
「面白いから、褒めてあげる」
「ほんと!?」
「でも、お仕置きはするから」
「うぅ……」
上げてから落とす高等テクニックに、あたしはガックリと肩を落とした。
そこで、不意に、手帳から顔を上げる。