第36章 共闘と対立のはざまで二人は
敦が組合から脱出してきた翌日。
事務所のソファーに転がっていた太宰さんは、それはそれは大きなため息を吐いた。
「はぁ~~~~~、遣る気出ない」
「朝から壊れたラッパのような声を出すな、太宰」
呆れたように言う国木田。
あたしはと言えば、だらだらする太宰さんの上で、ごろごろしていた。
「私は今ねぇ。誰かと対話する気力もないのだよ、国……なんとか君」
「不燃ゴミの日に出すぞ、貴様」
「そんなことしたら、国木田の眼鏡を油性ペンで黒く塗って、サングラスにしてやるから」
すると、眉間のしわを深くして「やめろ」と国木田が言った。
そんなあたしたちを他所に、太宰さんはさらにため息を吐く。
「あぁ……食事も面倒くさい。呼吸でお腹が膨れたらいいのに……詞織、それ取って」
言われた通り、スーパーのビニール袋を取ると、彼はそこから取り出したバナナを皮ごと齧り出した。
「太宰さん、お腹壊しちゃうよ?」
「バナナの皮むきすら面倒なら、餓死してしまえ」
太宰さんの様子に苛立ちが募る国木田を無視して、あたしはバナナの皮を剥いてあげる。
「お前たちと敦の連携で、街は壊滅を免れた! その翌日になぜそうなる?」
叫ぶ国木田を放ったらかしにして、太宰さんは牛乳を飲み始めるけれど、転がったまま飲むものだから、だばだばと零れた牛乳が彼の口元や襟を濡らしてしまう。
「太宰さん、太宰さん!」
あたしは慌ててハンカチで拭こうとすると、それをなぜかギプスを嵌めた方の腕で受け取って、器用に拭い始めた。
「それがねぇ……社長から次の仕事を頼まれちゃって……」
あれ? 太宰さんって骨折してるんじゃないの?
実は、この疑問が浮かんだのは初めてではない。
太宰さんが安吾と事故に遭ってから、あたしは何かと「腕が痛むから」と言う太宰さんの世話をしていた。
ご飯を食べさせたり、背中を流したり、一緒に寝たり……。
昨夜だって、身体はあまり動かせないからって、あたしにあんなことさせて――。
それを思い出して恥ずかしくなったあたしは、首を振ってその記憶を追い出した。
そんなあたしを怪訝な瞳で見た国木田のそばで、太宰さんが「あー」と続ける。