第35章 *愛の宝石と純潔の花*
「これ……」
あたしの右手の薬指に、小さな桜の指輪が光っていた。
「私からのクリスマスプレゼントだよ」
零れ落ちてしまうのではないかと思うほど、あたしは目を見開く。
胸が苦しくて、切なくて、よく分からないけれど、ギュッとなっていた。
「……あたしに、くれるの?」
やっとそれだけを口にすると、太宰さんは眉を下げて苦笑する。
「君以外にあげる女性なんていないよ」
言いながら、太宰さんはあたしの手を取って、指輪に口づけた。
「桜の花言葉を知っているかい?」
ふるふると首を振る。
花言葉を知っているなら、石を選ぶときも宝石言葉というものに気を配っているはずだ。
当然、太宰さんも、あたしにそんな知識があるとは思っていなかったのだろう。
あたしの手を取ったまま、あたしの目をまっすぐに見つめる。
太宰さんの瞳には、あたしの紅い瞳が映り込んでいた。
「桜の花言葉は『純潔』……汚れがなくて清らかなことだ」
「汚れ……?」
あたしはそれに、わずかに眉を寄せる。
もし、太宰さんがそれを知っていてこの指輪を選んだのだとしたら、大ハズレだ。
あたしは両親を殺し、『血染櫻』の異能で、これまでに何百人、何千人……いや、それ以上に数えきれない人間を殺している。
汚れがないはずがない。
闇社会で『血染めの人形姫』なんて呼ばれて忌避されていたことを、太宰さんだって知っているはずだ。
そんなあたしの心が読めたのか。
太宰さんはやはり笑いながら、あたしの頬に口づけた。
「どうしたんだい? そんな顔をして」
分かってるくせに。
「どうして、この花にしたの?」
太宰さんと同じ質問を返す。
花言葉が『純潔』であると知っていながら、どうしてこの指輪にしたのか。
「もちろん。君に似合うと思ったからだよ」
「ウソ。似合うわけない」
「人殺しだから? そんなことは関係ないよ」
そう言って、太宰さんはあたしを床に押し倒した。
ムーンストーンのネックレスが、あたしの真上で揺れる。