第35章 *愛の宝石と純潔の花*
「君から貰えるプレゼントとしては、一番ぴったりだね」
「え? どうして?」
尋ねると、太宰さんはクスクスと笑い出した。
「知らないで選んだのかい?」
知らないも何も。
ただ、月が綺麗だったなぁ、くらいの気持ちで選んだのだ。
それ以外にはない。
正直に言えば、太宰さんに似合うかなぁ、すら考えなかった。
喜んでくれるだろうか、はさすがに考えたが。
すると、太宰さんは箱からネックレスを取り出すことなく、淡い色の石に長い指で触れる。
「宝石にはね、宝石言葉というものがあるのだよ」
「宝石言葉?」
聞き返したあたしに、太宰さんは頷いた。
「ムーンストーンの宝石言葉は、『純粋な愛』。愛を伝える石と言われているんだ」
「愛を、伝える……?」
あまり深く考えないで選んだプレゼントに、そんな意味があったなんて。
ようやく箱からネックレスを取り出した太宰さんは、あたしにそれを渡してきた。
反射的にそれを受け取ったあたしに、太宰さんは「着けて」と言うと、自分のネクタイを解き、シャツのボタンをいくつか外す。
さらされた首の包帯の上から、あたしはチェーンの留め具を外し、太宰さんの首に手を回す。
シン…と静まり返る部屋の中で、シャランと金具が音を立てた。
まるで何かの儀式のように、空気がピンと張りつめる。
少しだけ手間取りながらも留め具をつけ直し、あたしは太宰さんの首から手を離した。
白い包帯に映えて、金色に縁取られたムーンストーンが太宰さんの胸に輝く。
「……きれい……」
その言葉はムーンストーンの輝きを指しているのか、それとも、ムーンストーンを飾った太宰さんに言ったのか。
自分でも、よく分からなかった。
ぼんやりと呟いたあたしの頬に触れ、太宰さんはゆっくりと顔を近づけてくる。
手が彼の大きな手のひらに包まれ、指が絡められた。
あたしは何をされるのか察して、目を閉じる。
「ん……」
唇が重なった。
太宰さんと交わした口づけは、いつもよりもずっと甘い気がした。
不意に、右手の指に違和感を覚え、あたしは顔を離す。