第35章 *愛の宝石と純潔の花*
「君の手は血に染まっている。けれどね、君の心は純粋で清らかだ。1点の曇りも汚泥もない。君以上にこの花が似合う人間なんていないよ」
「あたしの、心……? どうしてそう思うの?」
心なんて、太宰さんでも見えるはずない。
そんなあたしの言葉なんて聞こえていないのか。
首筋に太宰さんの手が触れた。
「つめた……っ」
小さく悲鳴を上げて首をすくめたあたしにすら構わず、太宰さんはまるで、あたしの心の奥底まで探るような視線を向ける。
「分かるさ。君のことなら何でも分かる。なぜなら……」
ねぇ、詞織……。
そうあたしの名を呼んで、太宰さんはあたしの服の上から心臓に口づけた。
「君は私のものだろう? 汚れのない、無垢な、私だけの……」
その続きは、口づけの中で溶けて消える。
ムーンストーンと桜の石が、閉じた瞼の裏で輝いた。
閉め忘れたカーテンの向こうでは、静かに雪が降り始める。
ホワイトクリスマスとなったことを知るのは、それからもう少し後のことだった。
≪愛の宝石と純潔の花 fin≫