第35章 *愛の宝石と純潔の花*
「どうしたんだい? 今日は随分とご機嫌ではないか」
「だって……」
今日はクリスマスだもん!
そう言おうとして、あたしは止めた。
これは、プレゼントを渡すときに言おう。
首を傾げる太宰さんを引っ張って、あたしは居間に座らせた。
「太宰さん!」
「ん?」
向かい合わせに座り、あたしは大きく息を吸って吐いた。
もう一度吸って、もう一度吐いて……。
念のためにもう一度吸って、もう一度……。
「後、どれくらい待ったらいい?」
「はっ!」
どうしよう! 緊張する!
太宰さんはあたしを急かすようなことを言いながらも、すごく楽しそうな表情をしている。
む、むぅ……。
「よ、よーし……」
小さな声で自分に気合いを入れて……。
「……って、あ、あれ?」
手に持っていたはずのプレゼントがない!
ど、どうしよ……。
「探し物はこれかな?」
「あっ!」
いつの間にか、あたしが渡すはずのプレゼントが、太宰さんの手の中にあった。
「そ、それ、太宰さんにあげるプレゼント!」
あ……。
あたしは慌てて口を押さえるも、すでに時遅し。
「ふーん……じゃあ、貰ってもいいよね?」
「うぅ……渡そうと思ってたのに……」
「だから、貰ったじゃないか」
そう言いながら、太宰さんはプレゼントの箱をしげしげと見る。
「チョコレート……ではないようだね」
「だ、だって……太宰さんの恋人になって初めてのクリスマスだから……」
太宰さんは「そうかい?」と少しだけ声を弾ませて、プレゼントの包装を解いていった。
そして、中の箱を開けて、目を丸くする。
入っていたのは、月を象った金色のネックレスだ。
中央には、月のように輝く石が嵌められていた。
「この石……ムーンストーンだね。どうして、この石にしたんだい?」
「太宰さんと初めて会ったの……月が綺麗な夜だったから……」
あの日、あの出会いがあったから、今のあたしがいる。
もし出会わなかったら。
それを考えたことがないわけではないけれど。
でも、そんなこと想像できない。
あたしの言葉に、太宰さんは「そっか」と優しく笑ってくれる。
太宰さんの表情の中で、一番好きな顔だ。