第35章 *愛の宝石と純潔の花*
「詞織ちゃん」
デパートの雑貨屋には、クリスマスに向けた様々な品物が陳列されていた。
ナオちゃんに呼ばれて、あたしは「何?」と視線を上げる。
「今年のクリスマス、気合いを入れて選ばないといけないわね」
「どうして?」
いつも通りではダメなのだろうか。
そんなあたしの考えを見透かして、ナオちゃんは「もう!」と語気を荒らげる。
「恋人になって初めてのクリスマスでしょ? だったら、前回までと同じような、『チョコレートの詰め合わせ』じゃダメよ」
「そ、そっか。もう少し値段の張るチョコを選らばなきゃ」
「そうじゃなくてね……」
ナオちゃんは、優しい声音で、諭すように言う。
ずっと闇社会で生きてきたあたしの手を、躊躇わずに取って。
「もっと、形に残るものを選びましょう?」
「形に……?」
「そう。チョコレートじゃ、食べ終わったら失くなるでしょ? そういうものじゃなくてね」
どうして?
あたしはその疑問を呑み込んだ。
それは、人に教えてもらうことではないと、直感的に思ったから。
代わりに別の言葉を選ぶ。
「どういうものがいいの?」
* * *
クリスマス当日。
あたしはそわそわとした気持ちを抑えることができないまま、それでもきちんと仕事はこなした。
ちょっと失敗して、国木田に怒られてしまったけど。
でも、そんな国木田の小言も、あたしの心を上滑りしていくだけだ。
仕事を定時で上がり、あたしは急いで自宅へ帰る。
バタバタと社員寮の自分の部屋へ急ぎ、あたしは隠していたクリスマスのプレゼントを手に取った。
緑の包装紙に、金色で縁取られた赤いリボンを飾った、いかにもクリスマスを意識してラッピングされた細長い小箱。
「太宰さん……喜んでくれるかな……?」
「私が、何かな?」
聞き慣れた声に、ビクッと肩が反応する。
振り返れば、待ち望んだ人物の姿があった。
「太宰さん!」
あたしは思わず駆け出し、その胸に飛び込んだ。
それを難なく受け止めて、あたしの黒い髪に指を通しながら苦笑する。