第35章 *愛の宝石と純潔の花*
凍える風に、あたしは身を震わせた。
「さむっ……!」
手袋にマフラーをしているというのに、全然あったかくない!
いや、手と首もとはちゃんとあったかいのだ。
寒いのは顔!
あたしは手袋をつけた手で、頬を覆った。
手袋越しだから、決してそれを感じたはずはないのだが、冷たい気がする。
そんなあたしの一連の行動を見ていたナオちゃんが、隣でクスクス笑った。
「むぅ……笑わないでよ。ナオちゃんも寒いでしょ?」
「そうですけど、だって……可愛いんですもの……ふふっ」
なぜ可愛いと笑われるのだろうか。
そんなことを考えたものの、それは一瞬で寒さへと変わった。
あたしとナオちゃんは現在、クリスマスプレゼントを買いに来ている。
ナオちゃんは兄である谷崎に、あたしは太宰さんに渡すプレゼントだ。
実は、あたしが太宰さんにプレゼントを用意するようになったのは、谷崎とナオちゃんが、探偵社に入社してからだ。
それまであたしは、プレゼントを渡す習慣すら知らなかった。
誕生日も、バレンタインデーも、クリスマスも。
太宰さんの誕生日を知らなかったわけではないけど。
あたしも、太宰さんから誕生日プレゼントをもらったのは、10歳のときの香水だけ。
太宰さんの誕生日では、彼は必ず、あたしの分の休暇も取って、2人でのんびりと休みを満喫する。
ただ、それだけだった。
バレンタインデーはどうだったかな?
言われてみれば、「チョコレート頂戴」と言われることがあったかもしれない。
でも、それは珍しいことではなかったし。
太宰さんがあたしにチョコレートをくれるのも、決して珍しいことじゃない。
それがバレンタインデーだったか、ホワイトデーだったかは分からなかった。