第34章 少年が読んだ本
「君の勝ちだよ、敦君」
「太宰さん……!?」
敦の表情が、驚きと安堵に塗り潰された。
「君の魂が勝った。これで街は大丈夫だ」
そして、ハッと我に返って叫ぶ。
「2人とも危険です! 空から敵の銃撃が……ッ!」
当然、折り込み済みだ。
「どうかな?」
にっこり笑った太宰さんがあたしを呼ぶ。
「詞織、頼んだよ」
「はい、太宰さん」
異能力――『血染櫻・櫻霞(はながすみ)』
パチンッと指を鳴らせば、仕掛けておいたあたしの異能が破裂し、紅い霧が街中を包み込んだ。
敦が脱出するという話を聞かされたときに、太宰さんの命令で、あたしの血液を入れた小瓶を街のあちこちに仕掛けておいたのだ。
あたしが合図をすれば、破裂した血液が瓶を砕き、辺りを覆い隠す紅い霧となる。
その霧に乗じて、あたしたちは敦を抱え、地下へ姿を隠した。
* * *
あたしは敦に肩を貸しながら、太宰さんと地下へ逃れる。
Qの人形は、すでに太宰さんが沈黙させていた。
「……どうしてここが?」
ひとまず敦を地下の階段へ下ろす。
「アンタが降ってくる方角を、太宰さんとずっと探していたのよ。太宰さんが、敦は絶対脱出してくるって言うからね」
途中で国木田がQの異能にやられるトラブルはあったけど。
見逃さなくてよかった。
「よくやったよ、敦君。これでもう、横浜は安全だ……と言えればよかったのだけど」
太宰さんが大きくため息を吐く。
そう、まだ安心はできない。
Qが敵の手にある限り、組合は何度でもこの惨劇を起こせる。
唯一対抗可能な異能特務課も、活動凍結させられているのだ。