第34章 少年が読んだ本
「太宰さん」
一瞬だけ空に見えた影に、あたしは太宰さんの服の袖を引っ張った。
それだけで、彼はあたしの目に映ったものが何か分かったらしい。
後を与謝野先生たちに任せて、あたしたちは外へ出た。
外へ出れば、そこはあたしが頭の中で想像した通りの……いや、それ以上に悲惨な光景が広がっていた。
標識が折れ、車は横転し、ビルからは火の手が上がって、人々は呻きながら暴れている。
周囲からは言葉にもなっていない悲鳴が響き渡っていた。
そこへ割れるような銃声。
あたしたちは、その銃弾が狙っている場所へ急いだ。
不意に、視界に燃料輸送車が過る。
その傍には敦の姿が……。
「詞織!」
「はい、太宰さん!」
まるで待っていたように、燃料輸送車へ着弾する弾丸。
激しい爆発が起こるより早く、あたしは背中を傷つけ、吹き飛ばされるはずの敦を抱え、紅い翼をはためかせて上空へ逃れた。
固く視界を閉ざした敦が、ゆっくりと瞼を持ち上げる。
そして、パープルゴールドの瞳を丸くして、あたしの名を呼んだ。
「詞織さん!? どうしてここに!? ここは危険です、狙撃されて……」
あちこち擦り剥いている敦を地面に下ろすと、彼は自分の両手を見て青ざめた。
「人形がない……! さっきの衝撃で落として……」
急に動いたせいもあるのだろう。
人形は少し離れた場所に落ちていた。
それを求めて、ふらつく身体で1歩を踏み出した敦は、細かな瓦礫に躓いて転んでしまう。
立ち上がろうとする敦は、疲労が全身に広がったのか、起き上がることができないようだ。
あたしは敦に駆け寄り、手を貸そうとするのと、彼があたしたちの元へ到着したのはほとんど同時だった。
コツン…と鳴った足音に敦が顔を上げる。