第33章 理想を愛した女性
太宰さんの予言通り、ヨコハマにはQの異能による被害が広まっていた。
目から血を流す人々が増大し、互いが互いを傷つける、無秩序な争い。
眼下で広がるそれから目を逸らし、あたしと太宰さんは屋上から空を見上げていた。
端から見れば、ただぼんやりしているようにしか見えないだろうけど。
空を飛んで確認してこようか、と提案してみると、太宰さんは不要だと答えた。
ヨコハマの真上を飛んでいるのは間違いないし、要塞に透明化の機能が搭載されていたとしても、そこから落下する敦にまでそれは機能しない。
つまり、見れば分かるから、ということ。
落ちてくる方向は、だいたい見当がついているし。
そこへ、ツカツカと神経質そうな足音が屋上に近づいてきた。
バンッと開かれた扉から現れたのは、予想に違わず国木田だ。
「どうしたの、血相を変えて」
いつも以上に険しい顔の国木田にそう尋ねると、彼は振り返った太宰さんに、襟を広げて見せた。
そこには、誰かに掴まれたような手形がくっきりとついている。
「こいつの意味を教えろ」
「そ、それ……」
息を呑むあたしに、太宰さんの顔色も変わった。
「……分かった。皆を集めて」
あたしたちは国木田を連れて事務所へ向かった。
事務所に集まったのは、他に与謝野先生と乱歩さんと賢治。
Qの呪いについて説明し、椅子に座った国木田を動けないように鎖で雁字(がんじ)搦(がら)めにする。
しばらくして、国木田の目から紅い血の涙が流れ出した。
ガタガタと国木田の身体の震えに合わせて椅子が揺れる。
「……っ」
佐々城(さざき)さん、と国木田が誰かを呼んだ。