第33章 理想を愛した女性
覚えている。
2年前、あたしと太宰さんが入社してすぐに関わった、『蒼の使徒』事件の首謀者だった女性。
まだ、国木田の中では深く残っているのか。
数年前に、『蒼王』と呼ばれる革命家が政治に関わる人間を殺していき、国を変えようとしていた。
ある日、ビルに逃げた蒼王の居所を掴んだのが国木田だったらしい。
事態収束の為に集まった市警や軍警の指揮系統が乱れ、挙句に下された「突入」の命令に従ったのは、異能力を持たない5人の刑事。
そして、蒼王の自爆と共に刑事5人が死亡するという最悪の結末を迎えた。
それが発端となった蒼の使徒事件は、恋人で参謀だった佐々城 信子という女性が、蒼王の仇を討つために起こした探偵社への緻密(ちみつ)な醜聞(しゅうぶん)攻撃。
自分の手を汚すことなく犯罪者たちを操って計画されたこの事件に、探偵社は苦しめられた。
死んだ蒼王が生きていたように見せかけ、太宰さんをそれに仕立てようとしたところには、未だに殺意を覚える。
最後は、蒼王の自爆に巻き込まれた父親の仇として、少年の銃弾に倒れたのだったか。
そう仕向けたのも太宰さんだったけど。
……と、いうか。
「何してるの?」
記憶が過去から浮上する。
すると、隣でビデオカメラを回している太宰さんに気づいた。
「録画してる」
「何で?」
「面白いから」
「…………」
呆れて何も言えない。
さすがに国木田が憐れに思えた。
国木田が助かるには、おそらく組合が持っているであろうQの呪いの人形を太宰さんの異能で無効化するしかない。
敦は本当に脱出してくるのだろうか。
あたしは、窓の向こうの空に目を凝(こ)らした。