第33章 理想を愛した女性
「……かなりマズイ事態だね」
探偵社に拠点を戻したあたしたちは、事務所の椅子に座って足を組む太宰さんに「どうして?」と聞いた。
太宰さんは先週の事故で右腕を負傷し、現在ギプスをしている。
正直、組合の刺客に遭遇したら、殺す自信しかない。
「組合がQを拐ったのは当然、Qの異能が有用だからだ。例えば、Qの呪いをヨコハマ中へ伸長すれば――」
「ちょっと待ってよ! Qの異能は『自分を傷つけた相手を呪う』能力でしょ? 傷つけていない相手までは呪えないじゃない」
「もし、それができる異能者がいるとしたら?」
ハッとあたしは息を呑む。
そうだ。
もし、じゃない。
Qの異能力の範囲を広げるような、そんな異能者がいるから拐った。
きっと、それが答えなんだろう。
そんなことになれば、ヨコハマは大惨事なんて言葉では済まされない被害が出る。
人が人を襲い、おそらく、血の海が広がるだろう。
「敦君を拐ったのは、その被害に巻き込まない目的もあるだろうね」
「ど、どうするの?」
どうすればいいんだろう。
そう考えるより早く、あたしは太宰さんの考えを窺った。
「敦君のことだ。どんな手段を使っても、きっと脱出してくるよ。Qの人形を持ってね」
「組合の要塞は空の上でしょ? いくら虎の再生力があっても――」
その先を続けることはできなかった。
あたしを見る太宰さんの瞳。
そこには、確信が宿っている。
「詞織。1つ、準備しておいてほしいのだけど」
立ち上がった太宰さんに、「はい、太宰さん」と言って、あたしはそれ以上何を言うこともなく、ただついて行くことにした。
* * *