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血染櫻【文豪ストレイドッグス】

第32章 許せない男


『なるほど。北米異能組織「組合(ギルド)」の暗躍ですか……』

 ビルとビルの間を飛びながら、あたしは黒塗りの高級車を追いかけた。
 安吾の服の裾に着けた血液から、車内の会話に聞き耳を立てる。

 集中力のいる作業だから、自動車を見失わないようにしながらというのは、正直辛い。
 赤信号で停車した自動車に、あたしも少し肩の力を抜く。

『そ。異能組織犯罪を取り締まるのが特務課のお役でしょう。職務怠慢は良くないなぁ』

 信号が青になり、再び自動車が発信した。
 次いで、安吾の口から信じられない言葉が出る。

『組合の行動は我々も把握しています』

 一瞬、その言葉の意味が分からなかった。

『……知ってて……放置してた、ってことかな?』

 固い太宰さんの声音に、珍しく焦る表情が見えた気がした。

『太宰君と違って、僕は勤労の徒ですから。そもそも、太宰君は組合がいかなる組織かご存知ですか?』

 組合とは一種の“秘密結社”で、構成員は各々が表の顔を持ち、政府・大企業の要職にある者も名を連ねている。
 その影響力は北米は疎か、本邦中枢にまで強力に食い込んでいて……。

 そう、安吾は続けた。
 それでは、太宰さんの作戦が――。

『おいおい……頼むよ。話の流れが怪しくなってきたじゃないか』

 バカなあたしでも、何となく話の内容は理解できる。
 つまり。

『政治ですよ、太宰君。連中は外交筋から圧力をかけ、構成員に外交官同等の権限を付与させました。もはや、彼らは法の外の存在。法執行機関は、組合を勾留すらできません』

 それでは、ナオちゃんたちを襲った組合の刺客も、すでに釈放されている可能性が高いということか。
 安吾の話では異能特務課も、他庁との権力均衡(パワーバランス)の中で身動きが取れないとのことだった。

『この会合も、おそらく連中の監視下です』

 安吾たちの乗る自動車がブレーキを掛けて止まった。
 それに合わせて、あたしも低いビルの屋上で足を止める。

『太宰君、逃げて下さい、今すぐ。そして、伝えて下さい。あなたの部下に危険が――』

 部下……敦のこと?
 安吾の言葉に、あたしの意識が自動車から外れた、その瞬間――。

 ――ゴシャァッ!

 けたたましい音を立てて、停車した安吾たちの自動車に、別の自動車が激突する。

「太宰さんッ!!」
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