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血染櫻【文豪ストレイドッグス】

第32章 許せない男


「……1ミリでも動けば、その前に首を刎ねる」

 あたしは意識して低い声を出し、護衛の2人を脅した。

『良い人間』は人を殺さない。
 そんなことは、太宰さんの危機の前では何の意味も持たない言葉だ。

 触れれば切れそうなほどの緊張感を持った空気を壊したのは、太宰さんだった。

「分かったよ。……詞織、異能を解除し給え」

「でも……」

「いいんだ。どうせ、こうなることを予期して弾を込めていないんだろう?」

 後半は安吾に向けられた言葉。
 太宰さんは銃を下ろし、安吾にそれを返すと、彼は「ご理解が早くて助かります」とにっこり笑って受け取る。
 その様子を見ても、あたしの怒りは収まらなかった。

「この2人は太宰さんに武器を向けた。許せるわけがない」

 護衛の2人は、すでに武器を下ろしている。
 けれど、あたしは異能を解除することなく、未だ紅い刃の切っ先を2人に向けていた。

「詞織、私が『構わない』と言っているんだ。すぐに異能を解除し給え」

 命令。
 あたしは奥歯を噛み締めながら、渋々刃を下ろす。

 その後、「おいで?」と優しい声で呼ばれて、あたしは太宰さんに抱きついた。
 よしよし、と頭を撫でられて、ようやく怒りが落ち着いてくる。

「言葉の割りに、随分と嬉しそうですね」

「そりゃあ、可愛い恋人が私の為に怒ってくれたんだ。嬉しくないわけがない」

 その回答に安吾は一瞬怪訝な顔をしたけれど、深く追及することなく、一つだけため息を吐いた。

「で? 旧交を温めるのが目的でないなら、ご用件は?」

 アンタと温める旧交などない、と言ってやりたかったが、あたしは黙っていることにした。
 きっと、一度言い出したら止まらなくなってしまう。

 安吾の問いに、太宰さんはあたしを解放し、安吾が乗ってきた黒塗りの高級車へ向かって足を進めた。

「いやぁ、さすが、宮仕えは良い車だねぇ」

 ペシペシと素手で高級車を叩く太宰さんに、安吾は「指紋がつくので止めてください」とあからさまにイヤな顔をする。

「ドライブしない?」

 端正な顔に裏を覗かせる笑顔を浮かべて、太宰さんは安吾を誘った。

* * *

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