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血染櫻【文豪ストレイドッグス】

第31章 過去に囚われる少年


「私も、策の清濁に拘っている場合ではない……か」

「どうするの、太宰さん?」

 未だホームに座り込む敦に視線を向け、それを太宰さんに移した。

「そろそろ反撃といこう。こちらも手札を切るよ。300ある中で1番エグイ鬼札(おにふだ)をね」

 この戦争に、政府機関を引きずり込む。

 政府機関、と言われて、すぐにそれが内務省の異能特務課だと分かった。
 4年前の、『あの』出来事が脳裏をちらつく。

「早く、ナオミちゃんたちを避難場所まで送り届けよう」

 太宰さんはあたしたちを促すと、自分はどこか――おそらく、異能特務課の伝手――へ連絡を取り始めた。

 促された敦は、慌てて春野 綺羅子に手を貸そうとする。
 しかし、そんな彼に春野さんは小さく悲鳴を上げた。
 敦が息を呑んでナオちゃんを窺えば、彼女もどこか固い動作で身を引く。

 ムリもない。
 組合の刺客からどうにか逃げて来て安心したところで、意味も分からず味方に襲われたわけだし。

 けれど、その現実に敦は再び俯いて拳を握る。
 あたしはため息を吐きながら、敦に声を掛けることにした。

「敦、自動車の手配をしてきて」

「え、でも……」

「いいから。ここはあたしが引き受ける。アンタは自動車を」

 何度も言わせないでよ、と強めに言えば、敦は躊躇いながらも頷き、ホームを後にする。
 それを確認して、あたしは彼女たちに向き直った。 

「ナオちゃん、傷は大丈夫?」

「え、えぇ……」

 返事をして、彼女は首もとを触る。
 虎の怪力で首を絞められたのだろう、とあたしは推測した。

 よく無事だったものだ。
 下手をすればへし折れていたかもしれない。
 そんなイヤな想像を振り払って、今度は春野さんへ尋ねる。

「春野さんは?」

「わ、私は……」

 頭が痛むのだろうか。
 まだ起き上がれずにいる彼女には手を貸すことにした。

「分かってるとは思うけど、あえて言っておく」

 そう、あたしは2人に前置きをして、一呼吸置く。
 不安そうに瞳を揺らす彼女たちに、あたしは意識して声を出した。

「敦がアナタたちを攻撃したのは、決して敦の本意じゃない。怖い思いをしたのは分かってるけど、それだけは知っておいてほしい」
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