第31章 過去に囚われる少年
戦争中にも関わらず、空はどこまでも青く澄んでいる。
そんな中を、あたしは紅い翼で飛んでいた。
線路を伝い、ナオちゃんたちが乗った列車が停車する次の駅へ向かう。
――ゴキンッ! ガキンッ! ゴキンッ!
「嫌ぁあぁぁあぁッ!」
そこへ、大きな破砕音と同時に悲鳴が耳に届いた。
「戦闘!? それにこの悲鳴……ナオちゃん!?」
もしそうなら加勢に行かなきゃ。
あたしは羽をはためかせ、駅へと急ぐ。
駅のホームへと降り立つと、負傷したナオちゃんと春野 綺羅子、呆然と座り込んだ敦と、険しい表情をした太宰さんがいた。
ホームは大きな爪で抉ったような痕跡がある。
「太宰さん! これは……」
状況が読めずに尋ねると、太宰さんは大きくため息を吐いて答えてくれた。
「森さんが、Qを座敷牢から解き放ったんだよ」
「そんな……!」
その言葉だけで、あたしは状況の全てを理解する。
Qの異能を受けた敦が、ナオちゃんたちを異能で攻撃したのだと。
Q――夢野 久作。
弱冠13歳の幼い子どもだが、その異能は極めて危険なものだ。
太宰さん曰く、呼吸する厄災。
なぜなら、Qの持つ異能力『ドグラ・マグラ』が、『自分を傷つけた相手を呪う』という、異能の中で最も忌み嫌われる精神操作系の能力だから。
Qには敵味方の区別などなく、命あるものを等しく破壊する。
呪いが発動した者は、幻覚に精神を冒され、周囲を無差別に襲うようになってしまう。
呪いを発動するには、呪いの根源たる人形が破壊されること。
ただし、人形が破壊されたとき、呪いを受けるのは『受信者』のみで、『受信者』になる条件は『Qを傷つけること』。
『受信者』の身体には、誰かに掴まれたような痣が浮き上がるから、判別自体は難しくはないけど……。
そんなQを座敷牢に封印するために、太宰さんは多くの犠牲を払った。
正直に言えば、あたしもQの呪いに掛かったことがある。
だから、Qの異能を受けたらしい、敦の気持ちが、全く理解できないわけではなかった。