第31章 過去に囚われる少年
敦をフォローしなくちゃ、なんていう思惑があったわけじゃない。
どうしてこんなことしているのか。
それは自分でも分からなかった。
同じようにQの異能を受けた人間として、同情したのだろうか。
可哀想、と心のどこかで思ったのかもしれない。
――太宰さんにとっても、詞織さんは大切な人のはずです! そうじゃなかったら、いつも傍に置いておくわけないじゃないですか!!
先日、一緒に護衛任務についたときの、彼の言葉を思い出した。
誰かを助ける人間でありたい。
そう思っているところは、もしかしたら似ているのかもしれない。
「えぇ……もちろん、分かっていますわ」
「うん。少し、びっくりしちゃっただけよね」
ぎこちなくではあるけれど、2人は頷いてくれる。
「でも、敦さんはどうしてあんなことに……」
ナオちゃんの疑問も最もだ。
だから、あたしは2人にも分かるように、簡単に説明した。
Qの、異能について。
忘れたい過去が、消したい記憶が。
どこまでも、どこまでも、追いかけてきて。
追い詰めてきて、囚われて。
完膚なきまでに否定されて。
絶望のどん底まで突き落とされて。
悪夢以上の悪夢に、心は悲鳴を上げることすらできない。
あたしの説明を、2人は青い顔をして聞いていた。
それでも、その異能を受けたわけじゃない2人には、想像することしかできないだろう。
「詞織ちゃんも、敦君と同じようになったことがあるの?」
「……まるで、経験したことがあるみたいですわ」
おずおずと尋ねてきたのは春野さんに、ナオちゃんも躊躇いがちに続ける。
「…………」
不自然な間が空いたのは、どうしてだろう。
そんなことをすれば、2人が答えを察しても不思議じゃない。
それでも、あたしはすぐに答えることができず。
「……忘れた」
そんな、曖昧な返事しかできなかった。
* * *