第5章 血を操る少女
「くっ、相手は二人だ! とっとと殺っちまえ‼」
誰が言ったのか分からないが、その言葉をきっかけに、男たちはナイフを握り、弾を補充した銃を片手に、次々と私たちへ向かってきた。
だが、私は扉の前から一歩も動くことをしない。する必要性すら感じていなかった。
「……みんな殺していいの?」
最後の確認だろうか。
私が「あぁ」と頷くと、後は早かった。
布のように薄い刃が紅く伸び、ナイフを握って走ってきていた数人の男たちを纏めて切り裂いた。
紅い瞳はガラス玉のように澄んでいて、そこには一切の躊躇いも見られない。
私はそれを見て、口の端を持ち上げた。
この殺気の中でも、詞織は怯むことなく自身の血液を操る。
銃を構える男たちに走り、詞織はナイフを一閃させて、ナイフを濡らしている自身の血を男たちにかけた。
顔に掛った血液を男たちが拭き取るより早く、少女は細い指を鳴らす。
――パチンッ
けたたましい銃声の中にも響く乾いた音に導かれて、血液が破裂し、男たちの身体を弾き飛ばした。
その廃工場は血に染まり、1分も経たないうちに、工場内にいた37人の男たちは絶命する。
たった1人の少女によって……。
その光景を見て、浅く肩で息を繰り返す詞織の小さな身体が傾ぐ。
その軽い身体を、私は片腕で受け止めた。
白い顔が青白くなっているのは、気のせいではないはず。
新しいワンピースにも、白い肌にも返り血がかかっているが、半分くらいは自分の血だろう。
おそらく貧血だ。
工場の外で呆然とする部下たちに後の処理を任せ、私は詞織を横抱きにしてその場を離れる。
先の戦いで証明された、詞織の異能力の残虐性と可能性。
様々な戦略に対応できる詞織の異能力は、ポートマフィアにとっても有益だ。
そんなことを考えていると、詞織が瞼を持ち上げて紅い瞳を覗かせた。