第5章 血を操る少女
「太宰、さん……?」
「どうしたんだい?」
「あたし、上手く戦えた? 褒めてくれる?」
「あぁ、よくやった」
両手が塞がって撫でてやれない代わりに、私は少女の瞼に軽く唇を寄せる。
すると詞織は、くすぐったそうに身をよじった。
可愛い。
この世には、こんなに可愛い生き物が存在するのか。
血を浴びて汚れた顔が、幼いながらも色っぽく感じる。
けれど、それが他の男のものだと考えると少し不快で。
私は詞織を下ろして、ふらつく少女の顔の血を袖で拭ってやった。
そして、私は意識して優しい声を出してやる。
「帰ろうか」
「……はい、太宰さん」
殺すことにならなくて良かった。
見つけることができて良かった。
見つけたのが私で良かった。
私が連れて来た世界は、決して良いモノではないけれど。
それでも。
私は腕の中の詞織を見る。
少女は笑っていた。
37人の人間を殺しても、なお。
それにつられて私も笑う。
いいか、詞織が笑っているなら。
私はそれ以上考えることを止めて、詞織の小さな手を握った。