第5章 血を操る少女
「そうだね。喜ぶかは別として、上手くいったら褒めてあげるよ」
まだ善悪の区別がついていないのだろうか。
命を奪って「喜ぶ」という行為が不謹慎だという認識くらいはある。
私は「頑張る」と意気込んだ少女の頭を優しく撫でた。
「ですが、太宰さん。鍵がかかっているで、扉を開けることができません。破壊しますか?」
部下の進言に、私は鼻で笑った。
「マシンガンでも乱射するつもりかい? そんなの弾の無駄だよ。全く、もう少し頭を使い給え」
中也ならば、異能で扉をぺしゃんこにするのだろうけど。
ここには詞織がいるのだ。
わざわざ破壊する必要などない。
私は詞織に向き直る。
「詞織、扉の鍵を開けるんだ」
「……?」
私の言っている意味が分からなかったのか、首を傾げた。
だから私は、もう少し分かりやすく説明してあげることにする。
「鍵穴に血液を流し込んで固めるんだ。そうすれば、鍵が開くだろう?」
やってごらん、と私は廃工場の扉へ少女を誘導した。
詞織が心配そうに見上げてきたから、私は安心させるように一つ頷く。
それを見た詞織は、右手の人差し指に歯を立て、その指を鍵穴に押し当てた。
やがて、手首を捻って人差し指を回すと、ガチャンと鍵が開いた。
鍵が開く音に、少女は嬉しそうに私を見る。それに頭を撫でてやることで応じた。
詞織の笑った顔を見たのは、このときが初めてだった。
「さぁ、行こうか。恐らく、扉を開ければすぐに銃で攻撃される。気をつけるんだ」
警告して、私は扉を開ける。
――ドドドドドッ!
私が予測した通り、扉が開かれると同時に銃弾の雨が襲ってきた。
だが――……
異能力――『血染櫻(ちぞめざくら)』。
私の警告を受けていたからか、詞織は右手を大きく前に出し、血液の盾で全ての銃弾を受け止めた。左手には、先ほど買ってあげたナイフが握られている。
歯を立てた傷だけでは間に合わないと思ったのだろう。右手にはナイフで切った傷が一線刻まれていた。