第30章 その存在は神に似て
「こいつらは……殺すのか?」
「どうだろう。人質って5人もいるのかな?」
そう答えながら、小柄な男は首の傷に種を埋め込んだ。
「まぁ、いいや。逃げたお嬢さんたちを捕まえてから指示を仰ごう」
瞬く間に育った樹木が森林の木々と繋がる。
それからほんの数十秒が経過し、小柄な男は「よし!」と両手を打った。
「業務終了! 地元警察が来る前に撤収だ!」
その言葉に、列車へ向かっていたナオちゃんたちが捕らわれたのだと悟る。
捕らわれた状態では、谷崎の『細雪』で姿を隠しても意味がない。
どうにかしなきゃ。
どうにかしなきゃ。
どうにかしなきゃ。
けれど、そればかりで良い作戦など思いつかなかった。
ギリッと奥歯を噛みしめると、そこから新たな血が流れる。
「妹さん、借りてくよ」
先ほどの2人のやり取りで、ナオちゃんが谷崎を「兄様」と呼んでいたのを聞いていたのだろう。
男の言葉に、谷崎の瞳に殺気が宿った。
「ナオミを……どうする気だ」
いつも以上に低い声音に、あたしの方がゾッとしてしまう。
「担当じゃないから何とも。まぁ、監禁か拷問か……」
「そんなことが許されると思っているのか!」
「ムダよ、国木田」
小柄な男の回答に声を荒らげる国木田をあたしは止めた。
「コイツらにとって、監禁も拷問もただの仕事。そこにコイツらの意思なんて存在しない。ただ、命じられたからやるだけだもの」
コイツらに何を言ったところで意味なんてない。
「おや、よく分かってるね、お嬢さん。まぁ、モラリストには理解できないかな?」
確かに、元マフィアのあたしには奴らの言うことはよく分かるけど、モラルの塊である国木田には理解できないだろう。
そんなとき、呆然と「モラル?」と男の言葉を繰り返した谷崎の呟きが耳に届いた。
同時に、遠くから自動車の近づく音が聞こえる。
タイヤの重たい響きから大型車――おそらくトラックだろうと推測できた。
小柄な男もそれに気づいたようで、あたしたちから視線を外して振り返る。
この状況を見られては面倒だと考えているのが分かった。