第30章 その存在は神に似て
「超大国の秘密異能組織が異国で誘拐業とはな」
「耳が痛いね。でも、団長(ボス)が言っていたよ。『組合は良いことをする組織ではない』、『すべきことをする組織だ』ってね」
男が笑みを浮かべる。
その笑みがどこか不吉に思えて、あたしは無意識に眉をしかめた。
すると、背後に気配を感じて振り返ると、ゆらりと黒い影が蠢く。
そこには、気絶していたはずの黒い男が音もなく起き上がっていた。
「何!?」
国木田が叫ぶ。
黒い男がゆっくりとした足取りでこちらに向かってくる。
国木田が銃を発砲するけれど、まるで羽虫でもあたったかのように、男は首を傾げた。
「遅いよ、ラヴクラフト! 何してたの!?」
「寝てた」
ラヴクラフトと呼ばれた黒い男が短く答える。
あたしの異能を喰らっておいて「寝てた」なんて。
「銃がダメなら、あたしの異能で――」
カチンッときたあたしは、血液で鎖のついた鉄球を作り、大きく振り回した。
そして、その勢いを殺さないよう、黒い男をめがけて投げつける。
瞬間、それは弾かれた。
「な、何、あれっ!?」
黒い男の腕からは、太い樹木が伸びている。
「谷崎! 『細雪』で姿を――」
銃弾もあたしの異能も通じなかったことで、絶対的不利を悟った国木田が、一旦姿を隠して仕切り直すために谷崎へ指示を出した。
けれど、それより早く、太く大きな樹木の触手が、異能を発動しようとした谷崎とあたしたちを絡めとり、あたしたちは森林の向こう側にある崖へと叩きつけられる。
「うぁ……ッ!」
「ぐぁッ……!」
大きな衝撃に、あたしたちは血を吐いた。
身体中が激痛を訴え、飛びそうになる意識を、あたしは必死で繋ぐ。
「さて……これで形勢逆転だ」
ようやく起き上がれるまで回復したらしい小柄な男の声が遠くで聞こえた。
捕らえたあたしたちを、ラヴクラフトと呼ばれた黒い男と一緒に小柄な男が見上げている。
「う……」
身体を動かしながら、どうにかラヴクラフトの異能から逃れようとするけれど、あたしたちを捕らえる樹木はビクともしない。
『血染櫻』を使おうにも、先ほどのダメージと貧血で、頭が働いてくれなかった。
何だ、この異能は。
異能なんて言葉で形容できるものじゃない。