第30章 その存在は神に似て
「……こうなる気はしてた。アンリライブル・ソース……信頼できない情報源からのタレコミだからね」
この男の異能は、一度樹木と繋がれば、麓の樹木を操って列車を停止させることもできるかもしれない。
ナオちゃんたちが列車に乗るまでの5分、アイツに一度も樹木に触れさせてはダメだ。
樹木が国木田へ伸びる。
それを国木田は銃弾で弾くけれど、防ぎきれなかった分が彼の銃を叩き落とし、その腕を拘束した。
「国木田!」
あたしは国木田の前に立ち、血液で斧を形作る。
国木田の悔しそうな歯ぎしりが聞こえた気がした。
「君たちはこう思ったね? 『お嬢さん方が逃げ切るまで、僕に樹木に触れさせなければ勝ちだ』って」
思考を読み当てられて冷や汗を流すあたしたちに、男は爽やかな笑顔を向ける。
「戦況を簡略化すると行動が単調になる。動きを読むのは訳ないよ」
男の動きを警戒していると、後ろで国木田が口を開いた。
「……なるほど、後で手帳に書き控えよう」
ところで、と国木田は続ける。
「貴様は先刻こう思わなかったか? 『拳銃を叩き落とせば、もう俺に攻撃手段はない』と」
拘束されていない左手で、国木田は懐から1枚の紙を取り出す。
その紙には「自動拳銃」の文字がすでに書きつけられていた。
異能力――『独歩吟客』
あたしは国木田を捕らえている樹木を切り裂き、彼を解放する。
同時に、国木田の異能で作られた銃から吐き出された弾丸を男が樹木で防いだ。
けれど、思考が追いつかないのか隙だらけだ。
それを見逃すはずもなく、国木田は素早く距離を詰め、持ち前の体術で投げ飛ばし、地面に組み伏せた。
地面に打ち据えられた男の首から伸びる樹木を国木田がむしり取る。
首からの出血に合わせて、男は激痛に呻いた。
「戦況を簡略化し過ぎると、行動が単調になるぞ。後でメモしておけ」
言いながら、国木田は左手でうつ伏せさせた男の両腕を拘束し、右手でその後頭部に銃口を押しつける。