第30章 その存在は神に似て
あたしは空からナオちゃんたちを探す。
その視界の先で、自動車が樹木に絡め取られ、それを見上げる2人の男を見つけた。
中也が持っていた写真の2人と同じ。
あたしは一度下降して国木田たちにそれを知らせる。
「国木田、前方に組合の刺客を発見。自動車を捕らえてる。もしかしたら、中にナオちゃんが……」
「分かった。谷崎、『細雪』で姿を隠せ。奇襲を仕掛ける」
「分かりました」
異能力――『細雪』
ふわり、と雪が舞った。
あたしたちの姿の上に背景が上書きされる。
その状態のまま、あたしたちは組合へ接近した。
黒いボロボロのコートを来た長身の男と、オーバーオールの小柄な男。
小柄な男の首からは、細い樹木が生えている。
ナオちゃんたちを捕らえているのは、この男の異能だ。
自分から伸びる樹木を他の樹木と繋げて操ることができるのだろうか。
そんなことを考えながら、あたしは長身の黒い男の背中を取った。
「奇妙な国……この季節に……雪が……」
気だるげな声が流暢な日本語を紡ぐ。
どうやら、組合の人間は日本語が達者なようだ。
異能力――『血染櫻・櫻吹雪』
あたしはそれを最後まで言わせず、自分の血液の刃を飛ばして男を攻撃した。
「何!?」
小柄な男が、あたしたちの突然の登場に驚きを示す。
あたしの攻撃に続いて、国木田が小柄な男に発砲するが、男はそれを樹木で防いだ。
あたしたちが2人に攻撃を仕掛けた隙に、谷崎が捕らえられた自動車を救出に行く。
「ナオミ、逃げるンだ!」
「兄様! 詞織ちゃんも……来てくれたんですね!!」
信じていた兄たちの登場に、ナオちゃんは安堵の笑みを見せる。
運転席には、同じく事務員で、一緒に避難していた春野 綺羅子が乗っていた。
なぜ車で逃げようとしていたのかは、何となく察する。
避難していた先の中居か客から、自動車の鍵をこっそり拝借したのだろう。
ナオちゃんは太宰さんと同じで器用だし、頭も良いから。
谷崎は持っていたナイフで樹木を切り裂き、5分後に麓を通る列車へ飛び乗るよう指示をする。
2人を見送ったのを確認して、あたしは組合の2人へ向き直った。
黒い方の男は未だ倒れている。
小柄な男は頭を掻きながらため息を吐いた。