第5章 血を操る少女
首領と詞織を引き合わせた日の午後。
私は詞織を連れて出かけた。
服は簡単にワンピースを。色は黒中心に。やはり、マフィアといえば黒だろうというのもある。
他にもカップやら歯ブラシやら、後は算数ドリルに漢字ドリルなんかも買ってやった。
「う~ん、買い忘れはないかな?」
荷物は全て部下に持って帰るよう渡してあるから、私たちは手を繋いで歩くだけ。
「疲れてないかい?」
私の問いに、詞織はフルフルと首を振って否定した。
そのとき、私の携帯が鳴る。部下からだ。
全く、私は今日非番なのだよ?
「どうしたんだい?」
話を聞いてみると、夕べ壊滅させた組織の残党を見つけたらしい。
私は部下に「手を出さず見張っておく」よう指示を出した。
電話を切り、私は詞織に話しかける。
「君に初仕事だ。できるね?」
まだ組織に所属して一日も経っていないけど、私はそれを気遣うつもりはない。
詞織も、コクリと一つだけ頷いた。
* * *
部下のいる場所に駆けつけると、そこは廃工場だった。扉は固く閉ざされ、鍵がかかっているようだ。
「状況は?」
ため息混じりに尋ねると、部下の一人が恐る恐る口を開く。
「すみません。尾行に気づかれて、ここに逃げ込まれました」
まぁ、聞く前から何となく予想はしていたけどね。使えない部下たちだ。
「この廃工場、隠し通路の類いはなかったはずだね」
「はい」
「では、君たちは下がってい給え。ここは詞織一人で充分だ」
「で、ですが……子ども一人でというのは……」
「聞こえなかったのかい? 下がれと言ったんだ」
言い募ろうとする部下に、私は冷たく命じる。
私は膝を折って詞織と目線を合わせた。
「詞織、初めての仕事がこんな血生臭いものですまないね」
フルフルと詞織が首を振る。
「何をすればいいの?」
「この廃工場にいる人間を全員殺すんだ。人数は37人。銃で武装している」
「殺すの?」
「できないかい?」
そう言うと、紅い瞳が少しだけ揺れた。
「……殺したら、太宰さんは喜んでくれる?」
その言葉に、私は虚をつかれて目を丸くする。
やがて「喜んでくれる?」という言葉を呑みこみ、私は口の端を持ち上げた。