第30章 その存在は神に似て
社長はすぐに、事務員へ避難指示を出し、国木田に組合の向かった先へ行くよう命じた。
あたしは怒りが収まらず、血液が流れる腕を無造作に中也へ向けて振る。
異能力――『血染櫻・櫻花斉放(おうかせいほう)』
パチンッと指を鳴らせば、放たれた血液が一斉に破裂した。
けれど、中也はいとも簡単にそれを避ける。
「俺と戦ってる暇があンのかよ?」
「……っ」
あたしは奥歯を噛み締める。
あたしの嫌な予感は的中していた。
組合の刺客が向かっているのは、ナオちゃんが避難している場所だ。
早くナオちゃんを助けなきゃ。
でも、あたしはここを離れるわけにはいかない。
ナオちゃんは国木田たちが助けてくれるはず。
そう信じるしか――……。
『詞織』
不意に名前を呼ばれて、あたしはカメラを見上げる。
『お前もすぐに国木田と合流しろ』
「社長……でも、太宰さんは拠点を守れってあたしに命令を……」
『マフィアに知られた以上、この拠点を秘匿する意味はない。すぐに場所を移す。お前は事務員を助けた後、太宰を手伝え』
太宰さんの名前に、あたしは大きく頷いた。
* * *
「国木田!」
山道を走る国木田の自動車を見つけ、あたしは地上へ降りた。
ここまで、あたしは背中から伸ばした羽を使って、空を飛んで来たのだ。
陸を行くより断然早いし、それを見越しての社長の指示だ。
「組合は? ナオちゃんは無事なの?」
「まだ分からん。今、麓を走る列車に一時停車してもらえるよう交渉したところだ。10秒間だけなら止まってもいいと了承を得られた。次の停車駅では、事務員を避難地点まで護衛するため、太宰たちが待機している」
「そう……」
ちらりと谷崎を窺うと、青い顔をしている。
本当なら、1秒でも早く向かいたいはずだ。
「とにかく、急がないと。列車に間に合うように」
* * *