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血染櫻【文豪ストレイドッグス】

第29章 マフィアからの特使


「だ、太宰さんに聞かないと――」

 もし、太宰さんが『組織に戻る』というなら、そのときはあたしもついて行く。
 でも、中也は「太宰には関係ねェだろ」と言った。

 やがて、中也はツカツカと近づいて、あたしの胸倉を掴んだ。
 伸びた襟もとには、太宰さんがつけた所有の証が刻まれている。
 それを見た中也は、険しく眉をひそめた。

「太宰に抱かれたのか」

 その言葉が、なぜかあたしを責めているように聞こえて、あたしは段々と中也が怖くなった。

「……詞織、テメェ、本当に太宰の人形になったのか?」

「に、人形……?」

「こんなモンつけられて、太宰の匂いさせて、太宰の人形以外のなんだって言うんだ?」

「太宰さんの匂いって……?」

 意味が分からなくて聞くと、中也は呆れたようにため息を吐いた。

「意味も分からねェでつけてたのかよ? テメェが使ッてる香水は、太宰を連想するように調合された特注品だ」

「え……?」

 初めて知った香水の意味に、あたしは一瞬何も考えられなくなっていた。
 それでも、あたしは言い募る。

「で、でも、だからってあたし、太宰さんの人形じゃない。あたしは太宰さんの恋人で……」

 問いながらあたしを突き放した中也に、あたしは必死に言葉を紡ぐ。

「恋人? 本気で言ってんのか? 太宰はともかく、テメェに太宰への恋愛感情なんざねェだろ」

 疑問形ではなく、断定。


 ――太宰は止めておけ。それが其方の為じゃ。

 ――詞織さぁ、太宰のこと、本当に『恋愛的な意味』で好きなの?


 あたしの頭に、姐さまと乱歩さんの言葉が甦った。
 そんなあたしに、中也は言葉を続ける。

「そもそも、詞織。テメェが自分で何かを考えたことが一度でもあったか?」

「あ、あるよ! マフィアを抜けたのだって、太宰さんの恋人になったのだって、あたしは自分で考えて――」

 けど、中也はそれを「ふざけんな」と言って遮った。
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