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血染櫻【文豪ストレイドッグス】

第29章 マフィアからの特使


「……オイ、目が泳いでンぞ」

「うっ……」

 きっぱり言い切ったつもりだったのに。
 格好つけようとして失敗したあたしは、仕方なく言い直した。

「探偵社1番の名探偵の推理は外れない。訪問者の目的ぐらい、一目で見抜ける」

 言い直すと、中也はそれ以上追及することなく「テメェのトコの社長は?」と聞いて来た。

 あたしは口を開くことをせず、視線だけでカメラを示す。
 中也はカメラに向き直り、懐から1枚の写真を取り出した。

「ウチの首領(ボス)からお宅らにプレゼントだ」

 横から窺ってみると、そこには2人の男が写っていた。
 おそらく、組合の刺客だろう。
 黒いボロボロのコートを着た長髪の男と、賢治と同じようなオーバーオールを着た男。

「奴らを『餌』で釣った。現れる場所と時間もこの裏に書いてある」

 煮るなり焼くなりご自由にどうぞ。

 そう言うが、これは明らかな罠だ。
 確かに、組合の異能者たちを待ち伏せられるなら、またとない好機。
 でも、それで終わるわけがない。
 マフィアの人間が用意した舞台に、何もないわけがなかった。

「何を企んでるの?」

「探偵になったんなら推理でもしてみろよ」

 そんなこと、できるわけないって分かってるくせに。

「だったら――」

 あたしは右大腿に隠していたナイフで手を切りつけた。


 異能力――『血染櫻・櫻狩』


 両手で握ったナイフごと血液で覆い、それを一振りの紅い刀へと形成する。

「この前の報復ついでに吐かせてあげる!」

「そりゃ、凄え名案だ。やってみろよ」

 あたしは中也に向かって駆け出し、下段に構えた刀を切り上げた。
 けれど、中也はそれを軽く避ける。
 一撃、二撃と斬り返すけど、それは充分な余裕をもって避けられた。

 刀では埒が明かない。
 刀を作っていた血液に命じ、柄の長いハンマーへと変形させ、遠心力を使って振り回した。

「やっぱり、メッセンジャーは性に合わねぇ。仕事はこうじゃねぇとなァ!」

 楽しくなってきたのか、中也は口角を上げて楽しそうに凶悪な笑みを浮かべる。
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