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血染櫻【文豪ストレイドッグス】

第26章 少女のいた世界


「太宰さんの? いつも一緒にいるからかな?」

 もしかしたら、それで太宰さんの匂いが移ったのかも。
 しかし、姐さまはそうじゃないと首を振った。

「其方(そち)、まだあの香水を使っておるのか?」

「香水? ……あぁ、太宰さんから貰ってるヤツなら、毎日使ってるよ。太宰さんの言いつけだもん」

 太宰さんから貰っている香水。
 10歳の誕生日に貰って、それからは使い終わる頃にいつも新しいものをくれる。

 あの香水の香りは好きだ。
 離れていても、太宰さんと一緒にいるみたいだから。

 国木田は好きじゃないみたい。
 頭痛と胃痛が酷くなるって言っていた。

 でも、その香水がどうしたというのだろうか。
 姐さまの胸の中でもぞもぞと体勢を変えて、彼女の表情を伺う。
 すると、姐さまは真剣な顔で口を開いた。

「太宰は止めておけ。それが其方の為じゃ」

「え?」

 何を言われたのか、あたしは分からなかった。
 姐さまの言葉を反芻し、呑み込んで、あたしはその意味をようやく理解する。
 けれど、理解できたのと受け入れられるのとは別の問題で。

「どう、して?」

 どうにか絞り出すと、姐さまは目を伏せた。

「簡単なことじゃ。其方の想いを奴が受け止めることができても、奴の想いを其方が受け止めることはできぬ」

「そんなことない、だって……」

「良いから聞け」

 姐さまはあたしの言葉をピシャリと断ち切る。
 あたしはビクッと肩を震わせ、唇を引き結んだ。

「奴の独占欲は異常じゃ。それはマフィアにいた頃から。其方、太宰の部下と口を利いたことはあるかぇ?」

「あるに決まって……」

 そこまで言って、あたしの言葉は途切れた。
 4年前を思い出して、反芻して、返事を変える。

「……な……な、い」
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