第26章 少女のいた世界
「……姐さま」
紅葉姐さまからマフィアの行動予定を聞いて太宰さんと退出した後、あたしはもう一度彼女のところへ戻った。
「詞織か。ちょうど退屈しておったところじゃ」
こっちへおいで、と手招きされ、あたしは姐さまのベッドへ寄った。
「本当に綺麗になったのぅ。鴎外殿は悲しむじゃろうが」
そう言いながら、姐さまはあたしの頬に手を添える。
確かに、ロリコンな首領はガッカリするだろう。
対モンゴメリ戦で再会したときは、そんな様子は感じられなかったけど、案外内心では泣いていたのかも。
そんなことを考えていると、そのときに怯えていた自分が可笑しくなって、あたしはクスクスと笑ってしまった。
「なんじゃ? 何ぞ面白いことでもあったかぇ?」
「何でもない」
けれど、そのやり取りがまた楽しくて、あたしは笑いを抑えられない。
それに姐さまも楽しくなったのか、彼女も一緒になって笑い出した。
しばらくして、あたしは姐さまのベッドに腰を掛ける。
「詞織が綺麗になったのは、太宰が原因かぇ?」
姐さまの指摘に、あたしの心臓がドキリと跳ねた。
そんなあたしの心を見透かして、姐さまは「図星か」と肩を竦める。
「太宰の奴め、とうとう手を出しおったか」
少し殺気立つ彼女に、あたしは言葉を探した。
しかし、あたしの乏しい頭では言葉を見つけることができない。
オロオロするあたしを見て、姐さまは苦笑する。
そして、手を伸ばした彼女は、優しくあたしを抱き締めた。
ふわりとした穏やかな花の香りに満たされ、あたしの心が安らぐ。
けれど。
「太宰の匂いがする」
小さく、忌々しそうに姐さまが零した。