第5章 血を操る少女
「驚かせてすまないね。その子はエリスちゃんだ。どうだい? 天使のように愛らしいだろう?」
そんな首領の言葉を無視して、エリスちゃんは詞織の腕を引いた。
「ねぇ、一緒にお絵描きしましょう? ちょうど一人で退屈していたの」
ねぇねぇ、とエリスちゃんはいつもの自己中心的(マイペース)で詞織を引っ張る。
紅い瞳が助けを求めるが、私ではどうしようもないのだよ。
少し相手をしておあげ、と私は眉を下げて見せた。
だが、首領が苦笑しながら詞織に助け船を出す。
「エリスちゃん、それくらいにしてあげたらどうだい? 困っているようだよ?」
「何よ、リンタロウ! ちょっとくらいいいじゃない!」
「彼女はまだ太宰君と用事があるんだ。また今度来てもらおう。ね?」
「むぅ~」
渋々ながらも、エリスちゃんは詞織の腕を放した。
「あの……ごめん、なさい……」
謝罪の言葉は分かるらしい。
小さな声で、詞織はエリスちゃんに謝る。
「ふん、いいわ! その代わり、今度は一緒に遊ぶのよ!」
コクリ、と詞織は頷く。
「太宰君、彼女のことは全て君に任せるよ。詞織君も、困ったことがあったら彼に頼るといい。とても、優秀な人間だからね」
「…………」
私の元へ戻って来た詞織は、ぼんやりとした紅い瞳で首領を見る。
私が小さな肩を叩いて促すと、「はい」とか細い声で返事をした。
* * *
首領の部屋を出た私は、ふぅっと息を吐き、「さて」と詞織を見下ろす。
「宿舎が今はどこも満員でね。しばらくは私の部屋で寝泊まりをしてくれ。いいね?」
「太宰さんがそれでいいなら」
そう返事をする詞織がいじらしくて、私は詞織の頭を撫でてやった。
「では、まずは服の調達からだ。本当は紅葉の姐さんに頼むのがいいのだけど……」
せっかくだから、私が選んであげたいのだよね。
だが、姐さんに店を紹介してもらえば、彼女のことだ。「わっちが選ぶ」と言うに違いない。