• テキストサイズ

血染櫻【文豪ストレイドッグス】

第25章 闇に咲く紅葉の花魁


 それを引き戻すように、太宰さんがあたしを引き寄せた。

「そこまでにしてくれるかな?」

「太宰さん……」

 そんな太宰さんを見て、姐さまは視線を鋭くさせる。
 唇を歪めて、彼女は嗤った。

「久しいのぅ、裏切り者よ。組織の誰もが其方(そち)の首を狙っておるぞ」

「ははっ、行列に並ぶよう言わないと」

 冗談めかして太宰さんが返すと、姐さまの視線が、ドアの前に立つ敦へと移動する。

「……童(わっぱ)、鏡花は無事かぇ?」

 姐さまの問いかけに、ずっと俯いていた敦が、射るように彼女を睨みつけた。

「彼女は……行方知れずだ。あなたのせいで!」

 行方知れず……?
 そういえば太宰さんは、敦たちが襲撃された話をしたけど、その中に鏡花の名前は一度も出なかった。

 敦の言葉に、姐さまは喉を鳴らして笑う。
 彼女の態度に怒りが収まらない彼は、「何が可笑しい!」と腕を振り上げた。
 敦の腕が、白い体毛に覆われた太い虎のものへと変化する。
 しかし、それを太宰さんが掴んだ。
 敦の腕は、少年の細腕へと戻る。

「彼女は私に任せ給え。君は外に」

「太宰さん!」

 納得がいかないと太宰さんを呼ぶ敦を、「いいから」とドアへ向けて笑顔で押しやった。
 一度姐さまを振り返った彼は、やがて渋々と外へ出る。
 バタンッとドアが閉まったのを確認して、太宰さんは「さて」と早々に話を切り出した。

「早速で悪いけど、開戦までもう間がない。そして、捕虜には大事な仕事があるよね?」

 マフィアの戦況、今後の作戦を教えてもらおうかな?

 太宰さんの問いを、姐さまは鼻で笑う。

「マフィアの掟を忘れたかえ、坊主? お喋りな江戸雀は最初に死ぬ」

 確かに。
 情報を話せば味方に殺される。
 そして、用済みになった捕虜は敵に殺される。
 どちらにしても、情報を喋れば一番最初に殺されるのだ。

 固唾を呑むあたしの視界で、太宰さんが動いた。
 頭の後で手を組み、彼はドアに向けて歩き出す。
/ 320ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp