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血染櫻【文豪ストレイドッグス】

第25章 闇に咲く紅葉の花魁


 部屋に入ると、ベッドに革ベルトで固定された女性が瞼を閉じて眠っていた。

 ポートマフィアの刺客。五大幹部の一人、尾崎 紅葉(こうよう)。

 普段は長い髪を結い上げ、妖艶な着物を着ているが、今は髪を下ろし、簡素な病院着を着ている。
 さほど広くない室内で、太宰さんはパイプ椅子に座り、あたしはその後ろで彼女の目覚めを待った。

 与謝野先生の治療を終えた敦は入り口で俯いている。
 しばらくして、彼女は目を覚ました。
 状況が掴めていないのだろう。
 さ迷った視線は、やがて太宰さんに焦点を結ぶ。

「やぁ、姐さん。ご無沙汰」

 一瞬、目を見開いた彼女は、しかし、すぐに状況を把握したようだった。

「……この程度の拘束で、わっちを捕らえられると思うたか」

「まさか。だから私が見張りに」

 笑顔で太宰さんが答える。
 仮に異能を使って脱出を図っても、太宰さんの異能無効化で阻止できるから。

「姐(あね)さま、大丈夫?」

 あたしは恐る恐る姐さまに声を掛ける。
 あたしもポートマフィアを裏切った身。もしかしたら、もう嫌われて……いや、憎まれてしまっているかもしれない。
 けれど、姐さまはあたしを見て表情を和らげた。

「詞織、やはり太宰と一緒に居ったか。息災じゃったか?」

 マフィア時代では、よく可愛がってもらっていた。
 お洋服を買ってもらったり、お菓子をくれたり、遊びに連れて行ってくれたり。
 大好きな姐さまだ。

 大きく頷いて、あたしは姐さまに駆け寄る。

「成長したのぅ。可愛いだけでなく綺麗になっておる。じゃが……」

 姐さまが目を細めて口を開いた。

「其方(そち)には黒の服の方が似合う。白など、すぐに汚れてしまうじゃろう?」

 あたしの着ている白のワンピースを見て、彼女はそう言った。
 マフィアにいた頃は、もっぱら黒のワンピースを着ていたけれど、今は白のワンピースしか着ていない。
 過去との決別と、人を助けることへの誓いの意味もあった。

「詞織、其方に表の世界は合わぬ。其方も鏡花と同じ、闇でしか生きられぬのじゃからな」

 あたしの身体が震える。
 それを宥めるように、手を握りしめた。
 あたしは、今でもほんの弾みで闇の世界へ戻れる。
 闇の世界でしか生きられないという姐さまの言葉が、あたしの胸に刺さった。
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