第25章 闇に咲く紅葉の花魁
「ん……」
あたしは不意に目を覚ました。
一拍遅れて、ここが医務室だと認識する。
何をやっていたんだっけ?
まだ覚醒しきれていない頭を働かせた。
そうだ。首領と会ったと、太宰さんに報告したんだった。
少し眠るように言われて、あたしは眠った。
でも、太宰さんがいない。
眠るときは確かにいたのに。
急に不安を覚えて、あたしはその名前を呼んだ。
「……太宰さん……」
「何だい?」
ガチャッとドアを開けて太宰さんが現れる。
「太宰さん!」
あたしはベッドから降りて、その腰にしがみついた。
慣れ親しんだ香りに心が落ち着く。
そんなあたしの頭を、太宰さんは優しく撫でてくれた。
「随分と甘えたになったものだね」
「嫌?」
なら、止める。
そう言うと、太宰さんは小さく笑って、「そんなことないよ」と言ってくれた。
やがて、太宰さんはあたしを離す。
正面からあたしを見る太宰さんの瞳は真剣で、あたしは無意識に背筋を正した。
「敦君たちが組合にやられた」
突然の言葉に、あたしは息をすることも忘れる。
太宰さんの話によると、敦は鏡花の初仕事について行ったらしい。
その仕事帰りに、マフィアの刺客に襲われた。
鏡花の異能力『夜叉白雪』は、本人の意思で操ることができず、彼女の持つ携帯電話の声にしか従わない。
だから、鏡花の携帯に着信が入れば、それを知らせる信号を探偵社に送るよう、細工がしてあった。
マフィアの刺客に襲われ、どういう経緯かは分からないが、鏡花の異能が発動した。
そして、その信号を受信して駆けつけたのが、国木田と賢治だ。
一触即発の空気の中で、組合が割って入り、敦や国木田たち、さらにマフィアの刺客も、もろとも襲撃を受けた。
連絡が急に途絶えてしまい、国木田たちが向かった先に駆けつけると、敦や国木田、賢治、そしてマフィアの刺客が倒れていたらしい。
「今、与謝野先生の治療が終わったところだ」
瀕死の重傷者であれば、どんな傷も治癒させることができる彼女の異能『君死給勿(キミ シニタモウ コトナカレ)』。
瀕死の人間しか治せないけれど、その異能力を使えば、どんな人間だって治癒させられる。
与謝野先生の名前が出て、あたしは安堵の息を吐く。
「そういえば、マフィアの刺客って?」
* * *