• テキストサイズ

血染櫻【文豪ストレイドッグス】

第23章 少女が『強さ』を求めるのは


 ナオちゃんが突然姿を消したこと。
 それを探して、赤毛の少女を見つけ、傍にいた通行人も含めてファンシーな箱部屋に囚われたこと。
 外へ出れば箱部屋での記憶が消えること。
 部屋に残ったのは、あたしたち探偵社員以外に、医者の出で立ちの男性だったこと。

 その男性がポートマフィアの首領である森鴎外だったこと。

 赤毛の少女――モンゴメリの異能は、異空間(ファンシーな箱部屋)に相手を捕らえること。
 その空間には、アンと呼ばれる巨大な人形がいた。

 谷崎もあたしも捕まり、ほとんど敦1人が相手をした。
 そして、敦の捨て身の作戦であたしたちは助かった。

 それが、全てだ。

 忘れかけた恐怖が甦り、あたしは毛布を握りしめる。その手は微かに震えていた。
 指先の感覚が朧気になっていく。
 あたしの話を黙って聞いていた太宰さんは、不意にあたしの手に自分の手のひらを重ねた。
 あたたかな温もりに触れ、指先の感覚が戻ってくる。

「怖かったかい?」

 その問いに、あたしは必死で首を振った。
 恐ろしかった。
 怖かった。
 裏切ってしまった首領に会ったことも。
 あの部屋での出来事も。
 でも、1番怖かったのは――。

「強く、なりたいよ……」

 敦がいなかったら、あたしは……あたしたちは囚われたまま、出ることはできなかった。
 そう。あたしは何もしていない。
 それが恐ろしくて、たまらなく悔しかった。

「もっと、もっと強くなりたい……」

 誰にも負けたくない。
 龍くんにも、中也にも、敦にも……誰にも負けない力が欲しい。

 太宰さんの傍にいるために。

 太宰さんに認めてもらうために。

 太宰さんの1番でいるために。

 あたしには、それしかないから。

 バカで、愚かで、愚鈍で、取り立てて外見も良くなくて、子どもっぽくて。

 太宰さんに選んでもらえたことが奇跡で、なぜ選んでもらえたのかすら分からなくて。
 だったら、あたしが磨けるのは『強さ』しかない。
 これが誰かに劣ってしまったら、あたしには本当に価値がなくなってしまうから。
/ 320ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp