第22章 赤毛の少女と追いかけっこ
「異能は便利な支配道具じゃない。それは僕がよく分かっている」
自分が作った空間に死ぬまで――いや、死んだ後も囚われ続けたいか?
敦の問いに、それでもモンゴメリは首を振った。
「あたしは……失敗するわけには――」
居場所を失いたくない。
その心の叫びが、敦の胸にも突き刺さる。
それでも、敦はやらないわけにはいかなかった。
「今から手を離す」
決断の時間は、扉が閉まる一瞬だけ。
これは、敦にとっても賭けだった。
「だめ、待っ――」
敦が手を離すのと同時に、もの凄い勢いで身体が引っ張られた。
* * *
一瞬の後、ファンシーな箱部屋は見慣れた景色へと戻っていた。
奥の部屋へと囚われていたのであろう、大勢の人々がざわめく。
そこに、賢治やナオミ、谷崎や詞織の姿があり、敦はホッと安堵の息を吐いた。
けれど、すぐに赤毛の少女のことを思い出し、彼は彼女の姿を探す。
ほどなくモンゴメリを見つけた敦は、その小さな背中に声をかけた。
「……ごめん。もし、何か僕に……」
できることがあるなら。
そう言おうとした敦だったが、彼女は歯をむき出しにし、涙を浮かべて睨みつけると、何を言うこともなく走り去ってしまった。
それを、呼び止めることもなく見つめていると――……。
「あぁっ! エリスちゃん!」
間の抜けた声に、敦は脱力する。
ウェーブのかかった金色の髪に大きな碧い瞳の、10歳程度の少女。
その少女は、例の部屋で医者が敦に見せた写真と同じだった。
「大丈夫だったかい? どこに行っていたんだい? 心配したのだよぅ! 突然いなくなるから」
「急に消えたらリンタロウが心配すると思って」
その言葉から、その少女が囚われていたわけではないと分かる。
「そうだよ。心配したよぅ。泣くかと思ったよぅ」
すでに泣いているが。
「そしたら泣かせたくなった」
「酷いよ、エリスちゃん! でも、可愛いから許す!」
そんな2人のやり取りを、敦はどこか遠い眼差しで見ていた。
そこへ、小さな足音が聞こえ、ドンッと何かがぶつかる。