第22章 赤毛の少女と追いかけっこ
「鏡花ちゃん! 迎えに来てくれたの?」
そう尋ねると、無表情ながらも「心配した」と言葉少なに口にする鏡花に、敦は笑顔で礼を言う。
「それでは、私たちは失礼するよ」
後ろから声をかけられ、敦は振り返った。
異国の幼女を連れた医者に近づき、彼は頭を下げる。
「アドバイス、ありがとうございました。そういえば、お医者さんなのですか?」
街医者、と彼は自分を言っていた。
「元医者だよ。今は小さな寄り合いの仕切り屋中年さ」
少年、と医者は改めて敦を呼んだ。
「どんな困難な戦局でも、必ず理論的な最適解はある。混乱して自棄になりそうなときほど、それを忘れてはいけないよ」
手を振って去って行く2人を見送っていると、ゴッと何かが落ちた。
視線を下に落とせば、落ちたのは可愛らしいウサギのマスコットをつけた、鏡花の携帯電話だったのだと分かる。
「……鏡花ちゃん?」
少女に視線を向けると、鏡花はあり得ないほどに目を見開き、青ざめていた。
ガクッと膝をついた彼女に駆け寄る。
「鏡花ちゃん⁉ どうしたの⁉」
そんな敦の元へ、谷崎や詞織たちが来た。
「鏡花ちゃん、どうしたの?」
「分かりません、急に……」
そこへ、詞織が震える声で口を開いた。
「さっきまで、誰かと話してなかった?」
「え? えっと……お医者さん。元医者だって言ってた……あの、部屋に一緒に残った……」
瞬間、詞織の顔まで青ざめる。
肩を震わせてしばらく黙った彼女に、心配そうにナオミが「詞織ちゃん?」と呼びかけた。
「鏡花が怯えるのも無理はない。あの人は……」
大きく呼吸を繰り返し、詞織は何度も口を閉じたり開いたりをして、ようやくその一言を口にした。
「あの人は、黒社会を取り仕切るポートマフィアの首領――森鷗外、本人よ」