第22章 赤毛の少女と追いかけっこ
「そのうえ、部屋へと吸い込む力に腕力だけで抵抗したの? そんなこと、できるわけが……」
「君は……思い違いをしてる。僕は強くも、人気者でもない。むしろ、生きることはずっと呪いだった」
だから、他人を妬み恨む君の気持ちはよく分かる。
厳しい孤児院で同じような苦しみを味わったからこそ、敦には彼女の辛さも、恐れも理解できた。
彼女が便利で羨ましいと言った異能も、敦にとっては孤児院という居場所を失った原因だ。
異能で孤独を味わった少女と同じ。
どこまでも、敦とモンゴメリの境遇は似ていた。
「本当は君に、この作戦を失敗して欲しくない! 居場所を失って欲しくない! でも、僕は弱くて未熟だから、他に方法が思いつかない!」
「⁉」
不意に、モンゴメリの身体が敦の方へと引き寄せられる。それをどうにか踏みとどまると、フワリと雪が降り注いでいることに気づいた。
「これは……!」
紅い紐のようなものが自分の腰に巻きついている。
異能力――『血染櫻』
「僕が引き込まれるタイミングで、詞織さんが君に巻きつけたんだ。それを谷崎さんの異能で見えなくしていた」
君の見落としはただ一つ。
「この戦いは最初から、3対1だ」
詞織が手から伸びる血液を引き寄せる。
それに抗うことができず、彼女は敦に捕えられた。
暴れるモンゴメリを、敦は片腕でねじ伏せる。
身体は未だに、扉へと引き寄せられようとしていた。
「はっ、放しなさい!」
「異能を解除して、みんなを解放しろ。でないと君を、奥の部屋に引きずり込む」
「そんな……っ」
異能を解除しなければ、敦はモンゴメリを道連れにすると、そう言ったのだ。
化け物染みたあの鍵がなければ、部屋の扉は開かない。
裏を返せば、モンゴメリが部屋に幽閉されてしまえば、誰も扉を開けられなくなってしまう。
「そうなってから能力を解除しても、君は元の世界には戻れない。違うか?」
「それは……」
少女は視線を逸らす。
その動作は肯定を示していた。