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血染櫻【文豪ストレイドッグス】

第22章 赤毛の少女と追いかけっこ


 敦が扉から伸びる腕に掴まり、やがてバタンッと扉の向こう側へと消えた。
 それを見送り、モンゴメリは手を上げて喜ぶ。

「はい、おしまーい☆」

 そして、彼女は首を傾けながら、残った1人に声をかけた。

「それで、おじさまはどうなさるの?」

 異能力も持たない一般人。
 白衣をきているし、先ほど自分で『街医者』と言っていたから、医者なのだろう。

「おじさまの言葉のおかげで虎の彼に逃げられずにすんだわだから感謝の印に見逃してあげてもいいのよどうせ捕まえる指示のないこきたない中年1人見逃したってフィッツジェラルドさんは怒ったりしないものそれとも――」

 医者の後ろに巨大な人形が現れる。

「おじさまがアンに捕まったときの、絶望した顔を見てみようかしら?」

 すると、彼は顔を上げて少女を見た。


「――試すかね?」


 敦に話しかけていたときと同じ口調、同じ声音。
 けれど、底知れない何か。
 光の宿らない瞳に見据えられ、モンゴメリの身体が震えた。
 足が震え、手が震え、指一本も動かすことができなかった。

 これは、殺気?

 しかし、動けないのは彼女だけではない。
 医者の後ろにいるアンすらも、動けずにいた。
 恐怖が身体を支配する中で、医者が口を開く。

「無理だな。なぜならば、君はすでに敗けている。見るといい」

 医者の指が、敦たちを捕えている扉に向けられた。
 ユラユラと景色が歪み、そこには虎化させた手足で扉にしがみつく敦の姿があった。

「どうして――ドアは確かに閉まったはずなのに!」


 異能力――『細雪』


 驚愕するモンゴメリに、未だ身体中を掴まれ、扉の奥へと引き込まれようとしながらも、敦は説明した。

「ドアが開いた瞬間に、谷崎さんの異能で扉の映像を偽装した」

「そんな……」

 彼女の視線が、扉の奥――すでに囚われている谷崎に向けられる。
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