第22章 赤毛の少女と追いかけっこ
「何て力強くて便利な異能なんでしょう。さぞ幼少からみんなにちやほやされたに違いないわ」
「……?」
少女の雰囲気が変わった。
「あなた、元孤児なんですってね」
モンゴメリの瞳が敦に向けられる。
敦を狙う以上、彼の生い立ちや異能など、様々なことを調べたのだろう。
「そちらのあなたは?」
「……孤児院出身ではないけど、親はいない」
あたしは一度、ファンシーな模様の床に降りて答える。
「そう、あなたも孤児なのね。あたしも孤児なの。孤児院育ちよ。とても寒いところ。凍ったみたいな水で1日雑巾がけをした後は、何日も指の痛みが取れなかったわ」
それは、孤児院出身ではないあたしには分からない痛みだ。
「それに、あたしの異能はこんなだから、みんなから気味悪がられちゃって」
それに、とモンゴメリは続ける。
「あなたが攫われたとき、探偵社は必死に探したそうね。素敵だわ。きっとあなたが良い異能を持ってるからね」
「僕は……」
「あたしも異能を買われて組合に拾われたの」
何かを言おうと口を開いた敦を、少女は遮った。
「けど、組合は失敗を許さないわ。今回の作戦をしくじったら、汚れた紙ナプキンみたいに捨てられる。そしたらまた独りよ。そんなのって信じられる?」
モンゴメリはスカートの裾を握りしめる。その手は酷く震えていた。
捨てられるかもしれない恐ろしさは、あたしでもよく分かった。
あたしも、太宰さんに拾われた身だから。
異能目当てかどうかは分からないけど。
拾われてすぐは、まだ異能の使い方も下手で、よく太宰さんの立てた作戦を失敗した。
その度に、捨てられたらどうしようって、次は捨てられるかもしれないって、怯えた。
けれど、立っている場所はあたしより少女の方が遥かに過酷だ。
「ねぇ、なぜあなたなの? なぜあたしではないの?」
虚ろな瞳が敦を捉える。
きっと、自分の生い立ちと敦の生い立ちを重ねたのだろう。
同じ経験をしているからこそ、現在の立ち位置の違いに嫉妬を覚える。