第22章 赤毛の少女と追いかけっこ
「もちろん、よろしくってよ! お遊戯は皆の方が楽しいもの!」
両手を合わせて喜ぶモンゴメリに、あたしは首領のことをひとまず置いておくことにする。
知らないふりをしてくれているのだ。
今は目の前のことに集中しよう。
あたしは頭の中で作戦を立てた。
空間に虚像を映し出す谷崎の『細雪』で姿を隠せば、捕まるわけがない。
鍵でドアを開けて……勝負は数秒でつくはず。
「一応お断りしておきますけど、部屋の中では暴力は禁止よ。この部屋の中にあるものは、傷つけたり壊したりできないようになってますから」
準備はよろしくて?
少女の確認に、谷崎が鍵を掴んで頷いた。
あたしと敦は身構える――瞬間、ゾッと背筋が粟立った。
振り返れば、巨大な人形の幾本もの腕が、谷崎の細身の身体を捕らえている。
「ひとりめ、捕まえた☆」
アンと呼ばれていた人形は、その巨体とは裏腹に信じられないほど素早かった。
鍵を取り落とした谷崎は、ナオちゃんたちが捕らわれている部屋から伸びる、無数の腕に絡めとられる。
「わぁぁあぁぁぁあぁあぁぁああぁぁぁ」
――バタンッ
一瞬の出来事に何もできないあたしたちを嘲笑うように、谷崎はドアの向こう側へと消えた。
「またお友達が増えちゃったわ! 嬉しいわね、アン!」
はしゃぐモンゴメリの後ろで、巨大な人形はコキコキと音を鳴らしながら奇妙に蠢く。
「なぁに? まだ欲しいの?」
それじゃあ……と、モンゴメリの瞳があたしたちに向けられた。
アンの巨体が突進し、あたしたちに迫る。
人形の巨大な手があたしたちを掠め取ろうとした。
敦はすぐさま足を虎化させ、あたしは血液で翼を生み出し、それを避ける。
人形は奇声を上げながら追いかけてきた。
あたしと敦を捕らえようと、たくさんの腕を触手のように伸ばしてくる。
次々に繰り出される腕を、敦は持ち前のスピードで避けるが、あたしは宙を飛びながら、どうにか躱せている状況だ。
「すごいすごい。軽業師みたい! もっと見たいわ!」
モンゴメリは手を叩いて瞳を輝かせる。
このまま避け続けていてもこちらが消耗するばかりで、ナオちゃんたちを助けることはできない。
どうにかしなくちゃ……。