第22章 赤毛の少女と追いかけっこ
「でも、安心なさって。そのドアから誰でも出られるわ。お仲間を取り返したくなければ、ですけれど」
ナオちゃんたちが捕まっているものとは違うドアを指差し、赤毛の少女――モンゴメリはニヤリと嫌な笑みを浮かべる。
「どうするつもりだ」
低い声で尋ねる谷崎に、モンゴメリは「簡単よ」と答えた。
「この部屋のアンと遊んで頂きたいの。アン、いらっしゃい」
少女の呼びかけに応じ、モンゴメリの背後から巨大な人形が現れる。
赤い髪のお下げは、少女を模しているからだろうか。歪なその人形はモンゴメリの何倍も大きい。
ルーシー・モード・モンゴメリ――能力名『深淵の赤毛のアン(Anne of Abyssal Red)』
「アンは遊ぶのが大好きなの。少し甘えん坊だけれど可愛いのよ」
決して可愛くなどない。
不気味な人形の虚ろな瞳が、巻き込まれた一般人を見据える。
それに底知れぬ恐怖を感じた彼らは、悲鳴を上げながら外へ続くと言われたドアへ走った。
「「わぁぁあぁぁぁあぁあぁぁああぁぁぁ」」
「あっ、ただし、そのドアから出たら部屋の中のことは忘れちゃうわよ。よろしくて?」
そんな忠告が彼らに届くはずもない。
1人、また1人とドアの向こう側へと消えていく。
やがて静寂が訪れたとき、部屋にはわずかな人間しか残らなかった。
「残ったのは4人だけ?」
あたしと敦と谷崎と、白衣の男性。
部屋に残る人間に目を向け、あたしは最後の1人――白衣の男性を視界に収めて飛び上がりそうになった。
根底に刻まれた畏怖。
ボサボサの髪によれよれの白衣、冴えない中年を装ってはいるが。
彼は、ポートマフィアの首領・森鴎外本人だ。
どうしてこんなところに……。
そう思うのと同時に、あたしは無意識に敦の背に身を隠す。
そんなあたしに怪訝な顔をしつつ、敦は敵組織の首領とも知らずに話しかけた。
「ここは危険です。逃げた方がいい」
いやいや、逃げた方がいいのはあたしたちだから。
とは、当然言えるはずもない。
第一、ナオちゃんたちが捕らわれたままだし。
捕まったままの仲間を置いて逃げるなんて、『良い人間』のすることじゃない。
「女の子を探しているんだ。天使のように可愛い子なのだよ」
首領はあたしに気づいているはずなのに、知らないふりをする。