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血染櫻【文豪ストレイドッグス】

第22章 赤毛の少女と追いかけっこ


「頼むから、出てきておくれ。どこだい、エリス? 困ったねぇ」

 どこか聞き覚えのある声と名前。
 けれど、それを気にしている余裕はない。
 それを「退けッ!」と谷崎は突き飛ばした。
 後ろで敦が男性を気遣っていたが、あたしは無視した。

 不意に、谷崎が立ち止まる。
 視線の先には、昨日、フィッツジェラルドと一緒にいた赤毛の少女。
 あたしは谷崎と駆け出した。

「見つけたッ!」

 その肩を彼が掴むと――……。

「遊びましょ☆」

「「⁉」」

 少女が振り返った瞬間、その一瞬の間に景色が変わった。
 立方体の箱の中にいるような感覚。
 リボンや風船やぬいぐるみで飾られた、鮮やかな色彩の、どこか少女染みた部屋。

「ようこそ、アンの部屋へ」

 赤毛の少女が両手を広げる。
 すると、彼女は恥ずかしそうに頬を両手で包んだ。

「あらもう嫌だわこんなたくさんの方たちに見つめられてあたし初対面の方とお話しするの苦手なのでも駄目ねちゃんと説明しなくちゃあ皆さんお困りだわきっとすっごくお困りだわだってこんな見知らぬところに突然連れてこられたんですものあたしだったら心臓が飛び跳ねて――」

「ナオミはどこだ」

 ベラベラと息を吐くことなく続ける少女に、谷崎が鋭く質問を投げる。
 すると、少女も話を止め、ワントーン低く答えた。

「あら、ごめんなさい。その説明が最初よね。探偵社の皆さんは、あちらよ」

 少女が向かい合う扉の一つを指差す。
 そこに駆け寄ったあたしたちは息を呑んだ。

「賢治!」

「ナオミ!」

 ガチャガチャと谷崎がドアノブを回す。
 それが焦れったくて、あたしは「退いて」と彼を押し退けた。

 この程度の鍵、あたしなら――……。

 あたしは指の腹に歯を立て、滴る血液を鍵穴に当てた。
 だが。

「何、この鍵穴……形が定まらない……」

 鍵穴に血液が満たされず、回すことができないのだ。

「どうして……」

「あたしの用意する鍵じゃなきゃ開かないわ。開くのはあっち」

 少女が指をさしたのは、もう一つの扉。

「外の景色が……静止してる」

 それに駆け寄った敦が呆然と呟く。

「あたしの名前はモンゴメリ。ここはあたしの異能力で創った空間なの」

 話が一段落ついたところで、少女は自己紹介を始めた。
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