第22章 赤毛の少女と追いかけっこ
「敦君。君と違って、妹には異能がないンだ。足を引ッ張る」
「谷崎、少し言い過ぎよ。ナオちゃんはあんたを心配して……」
先ほどの自分と重なって、あたしはナオちゃんを庇う。
すると、怒った彼女は叫んだ。
「何よ、兄様! ナオミの言うことは何でも聞くと言ったじゃない‼」
「き、昨日の夜のアレはお前が無理やり……!」
感情的に言い返そうとした谷崎は「ハッ」と口を閉じる。
いったい何があったのか、赤くなった顔を長い袖で隠しながら「何でもありません」と言う兄に、ナオちゃんはドヤ顔だ。
話が分からないあたしと敦は、疑問符を飛ばすしかない。
「ナオちゃん。やっぱり、あたしたちといても危険だし、社に戻った方がいいっていう谷崎の意見には賛成。相手の異能力が分からない以上、あたしたちでどこまでナオちゃんを守れるか分からないし……」
「詞織ちゃんまで……」
悲しそうな顔をする彼女に、あたしの胸が痛む。
そこで、信号が青に変わった。
「と……とにかく! 事務員は社に戻るンだ!」
口では勝てないと悟った谷崎が、妹を置いて横断歩道を渡る。
それに戸惑いつつも敦が続き、迷った挙げ句、あたしも谷崎を追いかけた。
ここからなら、社も近い。
何もなく無事に戻れるだろうと思ってのことだ。
「あらあら。何なら、昨日の懇願を思い出させてあ――……」
風に乗って届いていた彼女の台詞が、不自然に途切れた。
「……ナオミ?」
立ち止まった谷崎に合わせて、あたしと敦の足も止まる。
「……まさか」
あたしの言葉の先は、二人にも分かったようだ。
サッと青ざめた谷崎と共に、あたしたちは来た道を引き返しながら、彼女の名前を叫ぶ。
「ナオミッ⁉」
「そんな、何の気配もなかったのに!」
――「詞織ちゃんが太宰さんに相応しいかどうか、それを決めるのは太宰さん自身ですわ」
脳裏にナオちゃんの言葉が蘇る。
探偵社の中でも年齢が近くて、特別仲が良い女の子。
いつだって、あたしを励ましてくれた。
「ナオちゃん、ナオちゃん!」
「どこだ! クソッ! ナオミを返せ‼」
「谷崎さん、詞織さん!」
必死で彼女を呼ぶあたしたちを、敦が追いかけてくる。
そこへ、白衣を着た中年の男が横切ろうとした。