第22章 赤毛の少女と追いかけっこ
「本当は何でもいいの、太宰さんと一緒にいられるなら、1番でいられるなら。上司と部下でも、先輩後輩でも、同僚でも、友達でも、兄妹でも、父娘でも……」
求められたから、恋人という関係になった。
でも、恋人には他の関係とは違うものが求められる。
それに、恋人という関係は、「さよなら」の一言で終わらせることもできる、脆いものだ。
あたしは、太宰さんとずっと一緒にいたいのに。
「詞織ちゃん」
優しい声で彼女はあたしを呼んだ。
「詞織ちゃんが太宰さんに相応しいかどうか、それを決めるのは太宰さん自身ですわ。太宰さんが詞織ちゃんを選んだ時点で、詞織ちゃんは太宰さんに相応しいと思いますよ」
「そう、かな……?」
「もちろん! それに、恋人に必要なのは『好き』という気持ちです。他に必要なものなんてありませんもの」
けど、もし太宰さんがあたしを好きでなくなったら?
もう、一緒にはいられなくなってしまう。
そう不安を溢すと、ナオちゃんは不敵に笑う。
「そのときは『おしおき』しましょう。私も手伝いますわ!」
「おしおき……裏を掛かれて、逆に痛い目に遭いそう」
あたしがそう言うと、それが可笑しかったのか、彼女はクスクスと笑い出した。
あたしは少し頬を膨らませる。
するとナオちゃんは、「ごめんなさい」と肩を震わせた。
「でも、きっと必要ありませんわ。太宰さんって、独占欲や嫉妬や束縛が強そうですもの」
そうかな、と言いかけたところで、信号が赤に変わる。
それを合図に、前を歩いていた谷崎が振り返り、「ナオミ」と妹を呼んだ。
「やッぱり社に戻るンだ」
兄の言葉に、ナオちゃんは眉を上げて反論する。
「嫌よ! ナオミも捜索を手伝うわ。こんなときに兄様と離れたくない」
「危険すぎる!」
「危険は社も同じよ。建物ごと消されるわ。ねぇ、敦さん。そうでしょ?」
突然話を振られて、敦が「え⁉」と狼狽えた。
確かに、ナオちゃんの意見にも一理ある。
相手の能力が把握できない以上、どこにいても変わらない。
けれどやはり、外よりは安全なはずで。
「そ……それはまぁ……」
目を泳がせながら敦は返事をするが、谷崎は真剣な眼差しでそれを否定した。