第22章 赤毛の少女と追いかけっこ
「あんなにピリピリした探偵社は初めてね」
敦と谷崎が前を歩く。
その一歩後ろをあたしと、後を追ってきたナオちゃんと二人で歩いていた。
あたしは上の空で、彼女の言葉に取り敢えず相槌を打つ。
それが分かったのか、ナオちゃんはあたしの名前を呼んだ。
「詞織ちゃん、太宰さんと何かありまして?」
「え?」
太宰さんの名前にあたしの意識が浮上する。
「何もないけど」
「あら。それにしては、先ほどの国木田さんの言葉を気にしていらっしゃるように思えますけど?」
国木田の言葉……。
――「お前が会議に出たところで、太宰の飾りにしかならんだろう」
「普段の詞織ちゃんなら、『国木田のバカ!』と言い返していたのではなくて?」
確かに、そうかもしれない。
しかし、なぜそこで『太宰さん』と何かあったことになるのだろうか。
そう尋ねると、ナオちゃんは「だって」と答えた。
「あの言葉で詞織ちゃんが傷ついたのは、詞織ちゃんの中で、太宰さんに対する『何か』が変わったからではないかと思いまして」
ナオちゃんの黒い瞳が、あたしの紅い瞳を覗き込む。
変わったこと。
それはあたしと太宰さんの関係だろうか。
「一昨日から、太宰さんと『恋人』になった」
そう言うと、彼女は「まぁ!」と両手を合わせた。
「おめでとうございます! ……と言いたいところですが、浮かないお顔ですわね」
もちろん、嬉しくないわけではない。
太宰さんは約束してくれた。
あたしが、1番だって。
恋人は、1番と同じ意味だって。
だけど……。
「あたしは太宰さんの恋人……でも、あたしは太宰さんに相応しくない」
「どうして?」
あたしは知っている。
あのときは、ずっと太宰さんといられるんだって、嬉しくて忘れていたけれど。
恋人は、1番とは違う。
何が違うのかは上手く言えないけど。
あたしは、太宰さんに相応しくない。
バカだし、子どもっぽいし……色々と不足している。
こんなこと、前は考えなくても良かったのに。
あたしは黙って聞いてくれるナオちゃんに甘えて、ポツリポツリと話した。